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十九話

 ダミアン様とオーフェン様には、魔術具にてアシェル殿下と話したことを伝えると、納得していたようだった。そして、自分達が既に転生者として辺りをつけられていたことに驚いていた。


 アシェル殿下はやはり有能な方なのだなと私は思ったのであった。


 それから数日後、私は借りていた本を返すために図書室へと向かった。基本的に開いている時間の私の楽しみはアシェル殿下と一緒に過ごしたり本を読んだりという事に充てられている。


 図書館に入ると、紙とインクの匂いがして、それを胸いっぱいに吸い込むと少し幸せな気持ちになる。


 一冊一冊が、誰かが一生懸命に何かを伝えるために書き上げたものである。


 私は借りていた本を返した後、今日は何を読もうかと本棚へと視線を移した時であった。


 また、ノイズのようなものが頭の中で響いて聞こえる。


 一体なんだろうかとあたりを見回すと、窓際の席に、ノア様が本を読んでいる姿を見つけた。


 ただその横には、見たことのない侍女が控えており、私は王城に滞在する間にノア様のお世話をする人なのだろうかと思う。


 けれど、どこか違和感を感じた。


 ただその違和感の正体が分からず、私はノア様へと挨拶へと向かった。


「ノア様。ごきげんよう。今日は何の本を読んでらっしゃるのですか?」


 声を掛けるとノア様は視線をあげ、それから微笑みを浮かべると立ち上がり、私の手を取って口づけた。


「エレノア嬢。こんにちは」


 ノア様が微笑みを浮かべているのだけれど、それになぜか私は背筋が寒くなる。


 今まで挨拶に手の甲にキスなどすることがなかったノア様が、どうしたのだろうかと思う。


「ノア様? あの……」


 雰囲気があまりに違う。私はどうしたのだろうかと尋ねようとしたけれど、横にいた侍女を見て、動きを止めた。


 なんだろうか。


 違和感を覚える。


 この違和感の正体は何なのだろうか。


「エレノア嬢。おすすめの本を教えてもらえないか?」


 私は違和感の正体が分からないまま、ノア様が好きそうな本を思い浮かべ、そして棚からとると差し出した。


「こちらはどうですか? ノア様ならば興味を持ってもらえる、かと」


 ノア様の瞳を見た。


 ぞっとした。


 あぁ。違和感の正体はこれだった。


 ノア様の瞳ではない。


 私は、顔に笑みを張り付けたまま、自然に見えるように本の紹介を行った。


「これは、遠方の農業について書かれたものでして興味深いかと思います」


 頭の中で、警笛が鳴り、出来るだけ早くこの場から離れようと、私は口を開いた。


「では、私は本を返し終わりましたので、失礼いたしますね」


 一礼して去ろうとした時であった。


 ノア様に手を取られ、私は足を止めた。


「エレノア嬢」


「はい? どうか、なさいましたか?」


 笑顔で振り返りそう答えると、ノア様にぐいっと腕を引かれ、体が密着するのを感じた。


 赤い瞳が私の事を飲み込むように見つめてきたかと思うと、ノア様の手が私の頬に触れる。


「……この、香りは?」


「え?」


 その瞬間、ノア様の瞳が私からそれて近くに控えていた侍女へと向いた。


「……おい」


 低い声が響いて聞こえる。私は未だにノア様に体を抱かれているような状況であり、どうやってこの腕から逃れるか考えていた。ただ、最悪の事態が頭をよぎり、私はスカートのポケットに忍ばせていた魔術具をばれないように起動させた。


「……この匂いは何だ」


 ノア様の言葉の意味が分からず、視線を侍女へと向けると、侍女は静かに言った。


「匂い? なんのことでしょうか」

『あららら』


「騙したな」


 二人の会話が見えない。ただ、私はどうにか声を絞り出した。


「申し訳ありませんが、この後用事がありますので、放してくださいませ」


 そう言って腕から逃れようとしたけれど、ノア様が腕に力を入れ、私の力ではびくともしない。


「あの!」


 私がノア様を見つめると、ノア様の赤い瞳が私をまた見つめてくる。それはぞっとするほどの視線で、私は怖くなる。


「おかしい……惑わされないとは。ふふふ。ふははははっ!」


 笑い声をあげるノア様は、いや、ノア様を語る何者かは、続けて言った。


「なるほど、俺がたばかられていたのか……まぁいい。本物はお前だ。私が欲しかったのは、お前だ」


 突然何のことだろうかと思っていると、顎を掴まれた。


「お前は我のものだ。この香り。はぁぁぁ。今まで我が求めていた香りはお前だったんだ。喜び、我に身を捧げるだろう?」


 私はその言葉に、やはりこの人はノア様ではないと睨みつけて言った。


「貴方の物? 香り? 意味はわかりませんが、私が貴方に身を捧げることはありませんわ。私は、アシェル殿下の婚約者ですから」


「アシェル……あぁ憎いなぁ。あの小童め。いいだろうでは、あの男を最初に殺してやろう。そしてお前は、我カシュの物になるのだ」


 カシュ。やはりそうだったかと思う。


 今のノア様はノア様ではない。


 つまり、カシュに体を乗っ取られているのだと私は思った。


「ノア様を返してくださいませ!」


 その言葉に、カシュは笑った。


「こいつは、我に屈服したのだ。心に隙がある者は意図も容易い」


「え?」


 そんなわけがない。ノア様が自分の身を捧げることなどあるわけがないと思った。


 その時、侍女が口を開いた。


「あーあ。本当はもう少し穏便に行きたかったのに、計画が台無しですわ。カシュ様」


 姿はそばかすにみつあみの侍女であった。けれど少しずつその姿が歪み、本当の姿を現し始める。


「チェルシー様」


「エレノア様。ふふふ。本当はここから本格的にゲームスタートなんですよ? まぁ、カシュ様が乗り移る体は好感度次第でしたけど」


「え?」


 一体何のことだろうかと思っていると、チェルシー様は楽しそうに笑みを深めた。


「好感度が二番目で、それでいてヒロインの事を守ろうと言う気持ちを持った対象者。ノア様がそれに当てはまったようね」

『うふふ。可哀そう。好感度が二番目の役割ってノア様は運が悪いわねぇ』


 その言葉に、私は目を丸くした。


 好感度が二番目? 私の事が好き?


 私はノア様との会話を思い出した。あの時、ノア様はなんといっていた?


『友達でいい。友達ならば、いつでもエレノア嬢の助けになれる。アシェル王子とエレノア嬢を祝福する立場に、俺はいたい』


 頭の中にノア様の言葉が蘇り、そして私の言葉がノア様の好感度を上げ、カシュに体を乗っ取られると言う苦しみの中へと落としてしまったのだ。


 私が友達になんてなりたいなんて言ったから。


「ご、ごめんなさい……ノア様、ノア様、ごめんなさい」


 瞳から涙が溢れてくる。すると、ノア様の体でカシュが私の涙を指ですくう。


 そしてそれをぺろりと舐めた。


「あぁぁぁぁ。これだ。俺が求めていたのは、これだ」


 カシュはそういうと私が零す涙へと舌を寄せ、私は恐怖のあまり身を固めた。


 私は、泣いてばかりだ。


 いつも泣いて、そして結局誰かに助けてもらって。


 私は唇を噛むと、涙をぐっと堪えた。


冬の日は、星が綺麗ですね。朝日が昇る前の、静かな青い空も好きです(*'ω'*)

おおよそ皆様お気づきのことと思いますが、私の後書きは、私のただの呟きの場所になってます。

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― 新着の感想 ―
ホント泣いてばかりですね。 ストーリーの展開上やむを得ないとはいえ、ぐずぐず泣くのは少々イラつく。 まあこれから逆襲するんだよね?
[気になる点] おぉ、クライマックスに向かってきましたね どうなるんだろう〜 [一言] 私も朝の日がのぼる前の、あの夜の深い紺と深い橙のグラデーションが好きです
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