十七話
「エレノア?」
『魔術師の二人と会ってから様子がおかしいな……ねぇエレノア。どうしたの?』
夕方になり、アシェル殿下は仕事を終わらせると私の元へと帰ってきてくれた。ダミアン様とオーフェン様とは別れ、私の手元には、連絡を取り合えると言う魔術具を置いて言ってくれた。
これがあれば距離が離れていても会話が出来るのだと言う。
この世界もどんどんと発展していくのだろうなと思いながら、私は顔をあげると答えた。
「何でもありません。アシェル殿下……」
そう伝えると、アシェル殿下は私の横に座り、侍女や執事を下がらせると部屋に二人きりとなった。念のために扉は少し開いているものの、話し声は外には聞こえないだろう。
「エレノア。何があったんだい?」
私の手を取り、アシェル殿下はじっと見つめてくれる。
この人の手を、私は放したくない。
「……アシェル殿下……私、どうしたらいいのか、わからないのです」
自分でもこれからどうしていくことが正解なのかわからなくて、私はアシェル殿下の手をぎゅっと握った。
本当はアシェル殿下に話をしたい。
けれど、ダミアン様とオーフェン様に忠告された。
この世界は、乙女ゲームの世界が現実化したもの。だからこそ、自分達が転生者だと話をして起こりえる未来を話した時、それがどんな作用をもたらすかは分からない。
だからこそ、出来ればアシェル殿下には話さない方がいいと言われた。
たしかに、チェルシー様はナナシに話をした。その為に、大きく未来は変わったような気がする。
けれど、これから自分がすることを考えると、アシェル殿下に言わないことはできない気がした。
私はアシェル殿下を裏切ろうとしている。
「私……」
この人が好き。
けれど、それと引き換えにこの世界が壊れてもいいのか。
「分からないんです」
私は涙が瞳から零れ落ちていくのを感じた。
分からない。強くなろうと思った。アシェル殿下の横に立つために。
けれど。
アシェル殿下が私の事をぎゅっと抱きしめてくれた。安心する温もりが感じられた。
「私、アシェル殿下が好きなんです」
「え? う、うん。僕も、好きだよ?」
『え? 何? 泣いているのに、どうしたの? 僕も、エレノアが、好きだよ。うん。僕はエレノアが大好きだよ』
ぎゅっと抱きしめながら私がひっくひっくと涙を流しながら嗚咽をこぼした時、アシェル殿下は、私の背中を優しく擦りながら口を開いた。
「ん~……もしかして、言えないことがあるの?」
『あー。何か、言われたのかな』
私は小さくこくりとうなずいた。すると、アシェル殿下から心の声がしばらく聞こえなくなった。
私はどうしたのだろうかと思っていると、優しく頭を撫でられる。
「エレノア。実はさ、言っていなかったことがあるのだけれど」
『国家機密だからね』
「え?」
「エレノアは、転生者って知っている?」
私はアシェル殿下から呟かれた言葉に衝撃を受け、アシェル殿下の顔を見上げて、固まった。
「アシェル……殿下?」
心の声が聞こえなくて、私は意図的にアシェル殿下が聞こえないようにしているのだという事に気付く。
「転生者を……ご存じなのですか?」
私の言葉に、アシェル殿下はゆっくりと息を吐くと、私をぎゅっともう一度抱きしめて言った。
「うん。知っているよ」
『あー……なるほど。やっとわかった』
アシェル殿下は小さく息を吐くと、話し始めた。
「ナナシの一件から、転生者と名乗る者達が一定数いることが確認されていてね、そういう人達について現在調べているんだ。エレノア……君も転生者なのかな?」
『……何か隠しているなぁとは思っていたけれど、なるほど、そういうことだったんだね』
私は顔をあげると、慌てて言った。
「わ、わざと隠していたわけではないのです! ただ、ただ……話すタイミングが……」
言い訳のような言い方になってしまったけれど、素直な気持ちだった。これでアシェル殿下に幻滅されたり嫌われたらどうしようかと、怖くなる。
「私、あの、あの……」
「エレノア。大丈夫だよ? ふふふ。焦っているの?」
『ふふふ。いやいや、大丈夫だよ。だって自分が転生者とか、言いにくいのは分かるし、エレノアの事、僕は信じているから』
アシェル殿下は、笑っていた。
私の顔を優しく両手で包み込む。
「エレノアってばなんでそんな不安そうな顔をしているの? そろそろ僕に、すっごく愛されている自覚をしてよ? 言っておくけど、誰にだって秘密はあるし、そのくらいで怒らないよ?」
『ふふふ。可愛い顔してなんか、びっくりしているけどさ、ふふふ。もう、可愛いな』
いつものように優しい笑みを浮かべたアシェル殿下に、私は尋ねた。
「だ、だって、すごい、秘密、ですよ? あの、隠していたとかではないですけど……でも、でも」
「たしかにすごい秘密だよね。でも、別にだからどうしたのかなって。悪いことしているわけじゃないし……エレノアはエレノアだし、君が信頼できる人だってことを僕は知っているから」
『信じてるいるから、大丈夫だよ? それに、多分さ、エレノアが思っているより、僕は君の事が大好きだし……ああぁぁぁ。ごめん、ちょっと気持ち悪い? 僕の愛って重め? わぁぁぁ』
心の中であわあわとするアシェル殿下の瞳を、私はじっと見つめた。
私はまた涙が零れ落ちてしまう。
「ふ、ふぇ」
涙が零れ落ち、私はアシェル殿下に抱き着いた。
「良かったです。嫌われたかと思いました」
「いやいや、ありえないよ」
『重めの愛でごめんね。でも、僕が君の事を嫌いになるなんてありえないよ? だ、だって、僕だって、こんなに人の事好きになるのは、は、初めてだし……』
その言葉が嬉しくて、私はほっと胸をなでおろした。
けれど、このままではよくない。
私は意を決して口を開いた。
「あ、あの……もしこの先の未来を知っていた場合、未来を人には話して変えてしまうことで、悪い方向に進むのではないかと、実は……悩んでおります」
そう告げると、アシェル殿下は少し考えると、首を横に振った。
「なるほど。でもそれって確証などないのでしょう?」
『実験的に行ったことがないのであれば、分かりえないよね?』
「はい……確証は、ありませんが……」
アシェル殿下はそれを聞くと、小さく息を吐いてから口を開いた。
「実は、僕達が把握している転生者で、この世界は略奪ハーレム乙女ゲームと言っている人がいてね、しかもそれが何と一人ではない」
「え?」
「そして僕はその内容を今、把握している」
『ごめんね。エレノアに話すべきか今までずっと悩んでいた。うぅ。僕の方が、秘密が多い。本当に……ごめん』
私はアシェル殿下が秘密にしていたこと自体は、この国にかかわる事なので仕方がないと思った。
それはいいのだ。ただ、私以外にもこの世界に転生者が多数いてそれもこの世界を知っている人がいるということに驚いた。
「エレノア。もうすでに僕は知っているんだ。だから、悩む必要はないよ。僕にも、エレノアの知っていることを教えてくれるかい?」
『本当に、ごめんね。とにかく今は、エレノアが何を悩んでいるのか教えてほしい。そして、僕も一緒に解決できるようにしたい』
私はその言葉に、ゆっくりとうなずいた。
頭の中ではまだまだ疑問で一杯だけれど、アシェル殿下に話してもいいという事実は私は少し安心した。
アシェル殿下に言わずに、今後自分が使用としていることを遂行するのは、無理だと感じていたから。
私はアシェル殿下に自分が知っていることを全て話したのであった。
メリークリスマス!!!
この前、新年来たと思ったのに、また近寄って来たんですよ。びっくりですよね(/ω\)
感想をくださった方! ありがとうございます。読んでくださっている方がいる!嬉しすぎて、うひひって気持ち悪く笑いました!
あぶらぶーん! 皆様、クリスマスだからたくさん食べてもプラマイゼロですよ!