十六話
机の上に侍女達がお茶と菓子を並べ、私の隣にはアシェル殿下が、そして向かい側にはローブを着た男性と煌びやかな男性が座った。
「エレノア。魔術師のダミアン殿とオーフェン殿です。今日は王城内にある魔法陣について話をしに来たのです」
『ちょっと怪しいかもしれないけれど、れっきとしたサラン王国所属の魔術師の二人だよ』
私はその言葉に、頭の中のアプリゲームのアップデートが頭をよぎる。
大人しそうなローブ姿の男性に煌びやかな男性。どちらもキャラ立ちしているような気がする。
まさかとは思うけれど、アップデート後の新キャラ追加であろうか。
『え? なんでこっちを見てくるんだよ。ええぇぇぇ。まままま、まさか、やっぱり悪役令嬢だから、ぼぼぼぼ、僕の事、僕の事の心を奪うの!?』
『あら、可愛い顔してこっちを見つめてくるわね。うふふ。かっわいいわぁ~。でも今日な愛でている場合ではないわよねぇ。この世界の今後がかかわっているのだから』
この二人は何の目的があってここに来たのだろうか。
アシェル殿下は魔法陣の紹介の為と言ってきたけれど、この二人は明らかにゲームの知識を持っている。
という事は、転生者である可能性が高い。
敵か、味方か。それが分かればいいのだけれど、とにかく情報を引き出さなければならないだろう。
「初めまして。エレノア・ローンチェストと申します。よろしくお願いいたします」
「アシェル殿下にご紹介いただきました、ダミアンと申します」
「オーフェンと申します」
二人は頭を下げると、アシェル殿下に促されて王城内にある魔法陣の位置と効果について話を始めた。その内容はいたって真面目なものであり、私は今後の為にも話を聞いていたのだけれど、途中途中で二人の雑念が入る。
『あぁぁ~。見つめられたら心をうううう奪われちゃう!』
『この世界、まだお化粧品発達しきっていないのにぃ、お肌ぷるっぷるねぇ!』
個性が強い。
しかも見た目で言えば二人共かなり真面目な顔をしながら話をしていると言うのに、心の中では楽しそうにしている。
『ぼん、きゅ、ぼーん』
私は顔をあげると、アシェル殿下の後ろに控えていたハリー様と視線が合った。
ハリー様はちらりと視線を自分が持っている書類へと移し、それから私の方へとまた視線を戻してくる。
どうやらアシェル殿下は早急に片づけなければならない仕事がある様子で、私はハリー様に向かって頷いてみせた。
最近、ハリー様と以心伝心出来てきているような気がする。
「アシェル殿下。あのお仕事あるのではありませんか? 私でしたら、お二人から話を聞いておきますので、心配なさらないでくださいませ」
そう伝えると、アシェル殿下はちらりとハリー様を一瞥した。
『ハリーだな? はぁぁ。エレノア、ごめんね。本当は最後まで一緒にいたかったんだけど、一度席を外して仕事を片付けてくるね』
私は小さく頷くと、アシェル殿下は立ち上がった。
「エレノア。また話が終わるころに来ますね。すみません。緊急の仕事が入っているようなので一度席を外します。ダミアン殿、オーフェン殿、よろしくお願いしますね」
「はい。かしこまりました」
「はい。ご安心ください」
二人はうやうやしげに頭を下げ、アシェル殿下は一度仕事へと戻られた。
そしてアシェル殿下が部屋を出た途端、ダミアン様が呟いた。
「……略奪ハーレム乙女ゲーム」
『さぁ。どどどどどんな反応するかなぁ?』
『まぁ。ダミアンったら、直球でいくわねぇ~。私達の敵か味方か見極めなければいけないから、仕方ないわよねぇ。だって、これで闇の王であるカシュを止めなきゃいけないんだから!』
その言葉に、私は静かに紅茶を飲んでから、小首をかしげた。
こちらの手札を見せるのは、二人が味方だと判断した時である。
侍女や執事も部屋の中には控えているので、あくまでもダミアン様は小さな声で呟いていた。
「ダミアン様? それは、どういう意味でしょうか」
微笑みを浮かべてそう尋ねると、二人が一瞬びくりとした。
『どどどど、どうしよう。でででも、協力してもらわないと、この世界が!』
『世界の為には、悪役令嬢の協力が不可欠よぉ!』
二人の心の声の様子からして敵ではなさそうだなと思った時だった。
不意に、耳にノイズのようなものがじじじっと聞こえ、何の音だろうかと部屋を見回したけれど、特に何もない。
私は今は目の前の二人に集中するべきだと二人に向かって口を開いた。
「あの、私に何か言いたいことがあるのですか?」
直球で聞いてみようと口を開くと、二人は顔を見合わせてから、緊張した面持ちで口を開いた。
「エレノア様は……この世界を守りたいですか?」
『おおおおお願いします! ぼぼぼ僕はまだ死にたくない!』
「私達はこの世界を守りたいだけなんですぅ」
『そうよぉ! まだこの世界で素敵な出会いだってしてないんだからぁ!』
二人の真っすぐな瞳を見て、私は二人は自分の敵ではなさそうだなと小さく息をつくと、答えた。
「もちろん、この世界を守っていきたいです。私はいずれアシェル殿下と結婚しこの国を支えていくつもりです。ですから、何か知っているなら教えてください」
そう伝えると、二人は頷き合って、それからおずおずと、勇気を振り絞るように言った。
「僕達は、エレノア様が転生者だと思っています。だから、ヒロインのはずのチェルシーと立ち位置が変わっているんだって。どうですか? 違いますか?」
『僕が記憶を取り戻したのは、この前だ。もっと早く思い出したかった』
「実は私達も転生者なんです。ですから、協力して、この世界を救ってほしいんです」
『ダミアンと魔術の実験中にぶつかって、二人してこの世界に転生した記憶を思い出すなんて、本当に驚いちゃうわよぉ』
その言葉に、私は驚いた。
まさか思い出したのが最近で、しかも頭をぶつけて同時に転生者だと気づく何てことあり得るのだろうか。
とにかく質問に答えなければならないだろう。
まだ確実に二人を信じることはできないけれど、心の声事態は嘘偽りがないようだった。
「……はい。私は十歳の時に思い出しました……自分が転生者だということを」
そう告げると、二人は目を丸くした後に、お互いにこぶしをぶつけあって笑うと、私に向かって言った。
「よかったぁぁ。そうじゃなきゃ、今後どうしようと悩んでいたんです」
『安心したぁ』
「これで世界を救うためのめどがつきそうです!」
『ほんっとうに、よかったわあぁ~。まぁでもそうじゃなきゃ、本当ならストーリー通りに進んでいるはずだものねぇ』
私は頷き、尋ねた。
「世界を救うとはどういうことですか? お二人はアップデート後をご存じなのですか? 私は知らないのです」
そう告げると、二人は喜んでいたところだったが笑顔を消し、それから難しい顔をして話始めた。
私はこのゲームのタイトルがずっと思い出せなかった。ただただ、頭の中に残っていたのは略奪ハーレム乙女ゲームというワードだけ。
それはどうやら二人もそうのようで、前世の記憶はかなり曖昧なようであった。
ただ、このゲームの事はおおよそ覚えており、アップデート後の事も覚えているのだと言う。
私はその話を聞きながら、一体どのようなアップデートだったのだろうかと真剣に話を聞いた。
この小説のイラストを描いてくださったShabon様の絵は皆様一回見てもらいです。なんでかって、エレノアちゃんとアシェル君がとても素敵ですから!ハリーのイラストを見たら多分、皆こいつかって笑うんだろうなって想像して笑ってます。
素敵なクリスマスイブをお過ごしください(●´ω`●)