十四話
チェルシー様の言うようにアップデートが行われていたとして、もしチェルシー様の言うように好感度が低ければサラン王国は一体どうなるのであろうか。
私の言葉に二人共動きを止めた。
『嫌い? どういうことだ? 突然どうした?』
『嫌い!? はぁ? いや、嫌いじゃないけど。いや、好きでもないしな! 僕がエレノア嬢を!? はぁぁ? 嫌いじゃないが好きでもないよ!!』
質問の仕方が悪かったとは思ったけれど、この際ちゃんと聞いていた方がいい。
もし嫌われているのであれば、チェルシー様の手に落ちないように好感度というか、友好関係をもっと築いていく必要があるはずだ。
「エレノア嬢。俺とエレノア嬢は友人だろう? 友人なのに、嫌いなわけがない」
『……そうだ。友人だからな』
「友人!? なるほど。友人の位置に収まったのですか。ちなみに僕だって別に君がエレノア嬢を嫌いだとは思っていませんよ。隣国の……王子の、婚約者ですし」
『っふ。なるほどなぁ。こいつは諦めあわけだ? ふふん。情けない男だなぁ……って、僕は一体何を考えているんだ。はぁぁぁ』
ノア様とジークフリート様の言葉に、私はとりあえずノア様には嫌われていないようで良かったと思った。
それに先ほどの声からしてジークフリート様も私の事が好きなわけではないけれど嫌いなわけでもないようなので、ほっとした。
私が好きな人はアシェル殿下なので、恋愛的な意味で言えば好感度を上げるわけにはいかないけれど、友好関係は築いていきたい。
物語の中の悪役令嬢のエレノアと私は違う。
「良かったです。嫌われていなくて」
私がほっとしてそう告げると、二人共私の事を見て動きを止めた。
『わかって、ないのだよな?』
『傾国っていう噂は……伊達じゃなさそうだ』
二人の心の声に、私は一体どういう意味だろうかと首をかしげたくなった。
「あの、お二人はどうしてここへ? ジークフリート様は国に帰ったのでは? それにノア様はどうしてこちらに?」
雪が降る中どうして二人共ここへ来たのだろうかという疑問に、ノア様もジークフリート様も視線が泳ぐ。
その時であった。
「エレノア」
『わぁお。はぁぁぁ。エレノアってばどうしてノア殿とジークフリート殿に取り合われているのかな?』
少し怒っているような雰囲気のアシェル殿下の声が聞こえ、私が振り返るとそこには傘を差したアシェル殿下がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
寒い雪の降る庭に勢ぞろいである。
「まぁ、皆様どうしてここへ? あの、もしかして私と同じように、雪を見に来たのですか? ふふふ。とってもきれいですよね」
ちらちらと降り積もる雪は光を反射して美しく、寒いけれど近くで見る価値はある。
だからこそ皆も同じ気持ちだろうかとそう思わず気持ちが高まりそう尋ねてしまった。
『っふ。可愛いな』
『なんだよそれ。可愛いなんて、可愛いなんて、可愛いなんてえぇぇぇ!』
『エーレーノーアー。お願いだから可愛いを振り撒かないで! エレノア。君は可愛いんだよ。わかっている? 僕は、僕は心配だよ。可愛すぎるって、本当に罪だ』
「え?」
私は何か間違えたのだろうかと不安になり視線をアシェル殿下へと向けると、小さくため息をついてから、アシェル殿下は私の手を引き、自分の傘の中へと招き入れてくれた。
「ノア殿とジークフリート殿には、チェルシー嬢の一件があったから来てもらったのです。エレノア。詳しくは中に入って話しましょう」
『はぁ。エレノア。鼻、赤くなっているよ。風邪ひいたら大変だよ』
「あ、そうなのですね。わかりました。では中へ……くちゅ……すみません」
小さくくしゃみをしてしまったのが恥ずかしくて私がうつむいてしまう。
令嬢が人前でくしゃみなどはしたない。
『小動物か』
『か、可愛い。っく。いや、違う! 断じて可愛くなど、可愛くなど……くそが!』
『はい。可愛い。それに風邪引くよ! ほら、中にはいってあったかくしようね』
恥ずかしい。
私はアシェル殿下にエスコートされ、温かな部屋の中へと移動したのであった。
部屋の中に入った私達は、一緒にお茶を飲み、これからしばらくの間ノア様も王城に滞在する予定になったとの話を聞いた。
どうやらジークフリート殿下の故郷であるアゼビアはノア様から話を聞きたいことがあるらしく、その話をする為と、そしてチェルシー嬢がどのような動きをするか分からない為、王城内へと避難の為に招き入れたとのことであった。
「そうなのですね。確かに、チェルシー様が何をしてくるかも、わかりませんしね……ノア様。大丈夫ですか?」
ミシェリーナ夫人と信頼関係を築きなれてきた時なのに、不安はないだろうかと思い声を掛けると、ふっとノア様が笑った。
「大丈夫だ。今回の一件が落ち着くまで、少し滞在させてもらうつもりだ。今日は謁見と確認事項だけすませ一度ミシェリーナ夫人の元へ帰るが、準備を済ませ来週からこちらに滞在する予定だ」
『エレノアとせっかく友人となったのだ。この際、友情を深めていくのもいいだろう』
その言葉に私は嬉しく思った。
王城内にはたくさんの本があるので、その中でノア様に紹介したい本も、語り合ってみたい本もある。
今まで共通の趣味を持つ友人はいなかったので楽しみである。
「ぼ、僕もこれからしばらくまたこちらでお世話になります。アゼビアの国王陛下からノア殿に確認してほしい事項を聞いていますので、それを確認すると共に、調べたいことがありまして」
『エレノア嬢。なんでそんなにノア殿と仲がよさげなのだ!? 僕の方がかっこいいだろう? 絶対に僕の方が魅力的な男性のはずだ!』
「そう、なのですか」
ジークフリート殿下は何を考えているのだろうか。
私はジークフリート様はかなり自己愛が強いのだなと思いながら、ゲームの中ではそういうことは語られないので、その外見故にガチ恋に発展する人達が多かったのになと思う。
この心の声をファンに聞かせててしまえば、ファンが減ってしまいそうな気がしてしまう。いや、むしろギャップがいいとなるのであろうか。
以前自分に多少好意を持たれているのかと思ったけれど、お門違いのようである。
ジークフリート殿下は、自分の事が好きなのだ。
『エレノア』
心の声でアシェル殿下に呼ばれて、横にいたアシェル殿下へと視線を向けると、ないはずの犬耳としっぽが項垂れているような姿が見えた。
私はどういうことだろうかと目をぱちくりと瞬かせてしまう。
『お願いだから、可愛い姿を振り撒かないで……やく』
やく?
一体何をだろうかと思っていると、心の声が続けて聞こえてきた。
『エレノアは僕の婚約者だよ。お願いだから、他国の王子をこれ以上君に好意を向けさせないで。いや、ごめん。むぅぅぅ。あぁぁ。僕って器が小さい。ごめん。ただのやきもちだから気にしないで』
私の胸は、一瞬できゅんと高鳴ってしまう。
やきもちをやかれることにきゅんとしてしまうのだから、私はこの恋にかなり溺れてしまっているのだろう。
私はアシェル殿下の手をさりげなく握ると、笑みを向けた。
真っすぐに向けられう気持ちが嬉しくて、私はしっかりとアシェル殿下の手を握った。
『仲がいいな』
『っく。僕の方がかっこいいのにな!?』
少し恥ずかしかったけれど、アシェル殿下の仲の良さを隠す気はない。
むしろアゼビア王国には第一王子であるアシェル殿下と婚約者の私とが良好な関係を築いているのだということを知ってもらっていた方がいいだろう。
少しでも不安要素はないほうがいい。
イルミネーションのことを、うちのちびちゃんはめぐみねーしょんと呼んでました(*'ω'*)
アドバルーンはアブラブーンww