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十一話

 空から爆発音のような破裂音が響いたかと思うと、突然バケツをひっくり返したような雨が降り始め、次の瞬間雷が近くの大木に落ちた。


「きゃっ!」


「なんだ!?」


 アシェル殿下は私の肩を抱き、落ちた雷によって燃える木を見つめた。


 ばりばりばりっという音が空気を震わせ、そして目の前の炎の中から黒々とした異形の物が姿を現した。


「なに?」


「まさか……」

 

 心臓が煩くなると同時に、手首につけられた薔薇の痣が熱を帯びたように痛みが増していくのを感じた。


 結局あれ以来原因も、問題も見られなかったそれが、今になって痛みを発する。


 突然の事に、私が動揺していると、聞き覚えのある甲高い声が響いた。


「うふふ! おひさしぶり~」


 黒い異形の横に、チェルシー様が蝙蝠のような翼を広げて、現れたのである。


 まるで可憐な天使のようなその風貌が、異形の横に並ぶとより一層不気味であった。


「チェルシー様……」


 両手首を抑える私に、チェルシー様はウィンクをした後に、口元に、しーっと指を立てた。


 意味が分からずにいると、異形はあたりを見回したのちに口を開いた。


「アシェルはどこだ」


 口がねぱっとよだれを引いて、そしてぎょろりとした目がアシェル殿下をとらえる。


「あぁ。お前だな。なるほど、器にはよさそうだ」

 

「そうですねぇ。カシュ様ぁ」


 頭の中に、ユグドラシル様やエターニア様から聞いていた闇や悪魔と呼ばれる存在が目覚めたと言う話が過っていく。


 これが?


 背中がぞわりとすると同時に、腕に刻まれた痣がずきずきと痛む。この痛みは一体何のためなのだろうか。


 その時、カシュと呼ばれた闇が鼻を鳴らした。


「ん? ……微かに、匂いが」


 そう言った瞬間、慌てたようにチェルシー様がカシュの前へと移動すると、言った。


「どういたしますか? アシェル殿下にいたしますかぁ?」


 一体何の話だろうかと思った時であった。騎士団の者達が駆け付け、カシュを取り囲むようにして剣を向ける。


 私とアシェル殿下の元にハリー様が駆け寄ってくると言った。


「非難を!」

『殿下! ぼん、きゅ、ぼーん!』


「無駄だ」


 まるで黒い霧のように、当たりが真っ暗になる。


 巨大な闇に飲み込まれたかのように王城一帯が包み込まれ、騎士達はカシュに向かって剣をかざすが、次々に、カシュのねっとりとした四肢に吹き飛ばされていく。


「エレノア! 避難をするよ!」

『これは!? くっ。外からの侵入を防ごうにも、強大な力の前には無理がある! っく』


 人間は弱い。


 獣人、妖精、精霊、竜人、様々な生き物のいるこの世界において、人間という生き物は本当に弱い。


 これまでだって何度も王城への侵入を許している。


 では、何故これまで生き残って来れたのか。それは、人間が知恵を絞り、他の種族との調和を求め、親交を深め、友好状態を築いてきたからだ。


 そして、未知なる脅威に対して、常に警戒心を深め、自己防衛方法を身に着けてきたからだ。


 人間の中には争いを好む者もいる。けれど、この世界において戦争というものは人間にとって自殺行為に他ならない。


 自衛こそが、この世界を生き乗るために技なのだ。


「ふははははは! その体もらい受けるぞ!」


 カシュが大きく口を開いた。そしてアシェル殿下に向かって大きな口を開けた。


 私はアシェル殿下を見た。


 アシェル殿下は大丈夫だと言うように私の肩をぐっと抱いた。


 その時であった。


「ぐえぇぇぇぇぇっぇぇっぇぇぇ」


 悲鳴のような声が響き渡ったかと思うと、カシュの体が光に包まれ始めた。


「怯むな! こちらも対抗策は講じてある!」


 サラン王国が他国と友好的に国をつなげそして人間の王国として豊かに暮らしているのは何かが起こった時、また起こった後、対策を常に繰り返してきたからである。


 地面から魔法陣のようなものが浮かび上がり、騎士達の剣も輝きだす。


「騎士達は逃さないように包囲! ハリー! エレノアを頼む!」


「はい!」


 アシェル殿下の腕輪が輝き、カシュが光に包まれて苦しそうにもがく。


「第一王子アシェルの名の元により、悪しき存在を捕縛せよ!」


 そう声をあげた瞬間、腕輪に呼応するように王城の五つの塔からも光が集まり、そしてカシュを押さえつけていく。


 私がハリー様に庇われていたのだけれど、腕の痛みが増していくのを感じた。


 この痛みは一体何なのだろうか。


「エレノア様大丈夫です。私とアシェル殿下でこんな時の為に用意したとっておきの装置ですから!」

『すとん! ヘドロ!』


 こんな時ですら、ハリー様はあだ名をつけるのを怠らない。けれど今はそれどころではなく、私は騎士達に指示するアシェル殿下を見つめた。


 けれどぎゅっと締め付けるように手首が痛み、一体なんだろうかと手首を見ると薄かった痣が黒くなり、そしてそれははっきりと浮かび上がっていた。


「これは……」


 その時であった。先ほどまでカシュの傍にいたチェルシー様が黒い翼を広げて光をかいくぐり私の方へと飛んできた。


 アシェル殿下や他の騎士達はそれにすぐに対抗するけれど、それをチェルシー様はかいくぐり、ハリー様の目の前まできた。


「ごめんねハリー」

 

 チェルシー様はそういってウィンクすると、ハリー様を翼で吹き飛ばし、私の目の前に来た。


「チェルシー様……」


 楽しそうにチェルシー様は笑う。


 可憐な少女であり、来ているスカートはふんわりと浮いて、まるでちょっと遊びに来たとでも言うような様子である。


「うふふふ。エレノア。さぁ、始まったわ」


「え?」


「アップデートのお時間よ。うふふ。今回は、闇の力を手に入れた私対エレノア。立ち位置は変わったけれど、やることは変わらないわ! ねぇ! さぁ! 私に攻略対象者達を奪われないように好感度を上げてイベントをクリアしていくことね! あははははは! さてさて、そろそろそれももらおうかしら!」


 そう言ってチェルシー様は私の腕を掴むと、黒い薔薇が浮かび上がった部分に自分の手を重ねた。

 

 すると痛みは消え、手首の薔薇の痣も消える。


 その代わり、チェルシー様の腕へと薔薇の痣は移っていた。


「これは……」


 私がチェルシー様を見上げると、チェルシー様はにっこりと笑った。


「やっぱり、貴方、アップデート後しらないのね」


「知らないわ! ねぇチェルシー様。一体何がどうなっているの!?」


 声を荒げると、チェルシー様は天使のような可愛らしい微笑みを浮かべて言った。


「大丈夫よ。うふふふ。じゃあ、頑張って、略奪ハーレムゲームのスタートよ!」


 楽しそうにそう言ったチェルシー様はカシュの所へと飛んでいくと、自身の黒い翼をはためかせ、そして次の瞬間、カシュの体を掴むと、そのまま空へと一瞬で飛んで行ってしまった。


朝起きたらカフェオレ入れて、ふぅふぅしながら飲むのが理想(●´ω`●)

現実はドタバタしながら、何も飲めてない(/ω\)


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― 新着の感想 ―
結局、あんな風に切り捨てられても性根が変わらないということは、そもそも性根が腐っているんだな。
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