五話
妖精と戯れてみたい(●´ω`●)
目の前が光に包まれたかと思った瞬間、アシェル殿下は私を守ろうと抱きしめてくれた。
そして目を開けた私たちの目に見えた物は。
「あははは~」
「ひゃっほーーー!」
「いらっしゃーーいい!」
花弁の嵐である。
美しい青空と緑、そして花々が咲き誇る草原。
樹齢何年なのだろうと言うような巨木には妖精たちの可愛らしい住まいがあるようであった。
「ここは……?」
アシェル殿下に抱きしめられながら私も周囲を見回すと、花弁がバケツ一杯頭からかぶせられ、それを楽しそうにユグドラシル様が笑う姿が見えた。
「エレノア! アシェル王子! 妖精の国にいらっしゃい!」
楽しそうな声でユグドラシル様はそういうと宙をくるりと一回転してから、私の目の前までやってきた。
「どう? びっくしりした?」
にこにことを笑うユグドラシル様に、私とアシェル殿下は失笑を浮かべつつも、頷いた。
「はい。驚きました」
『というよりも、何が何だかわからないよ~。とにかく、襲撃とかじゃなくてよかった。エレノア、とりあえずはチェルシー嬢のことはまたあとで話をしよう』
アシェル殿下の心の声に同意しながら、私は尋ねた。
「とても驚きました。それで、あの、これは一体どういう事なのでしょうか?」
ユグドラシル様は私の声に腕を組むと、笑みを消して言った。
「大切な話があったから、妖精の国に招待したのよ。でも、今回はかなり大事だから、お母様から話を聞いてちょうだい」
『はぁ。嫌だわ。あれの臭いが強くなったのを感じる。はぁ。嫌だ嫌だ……ん? 何か変な臭いが……? 気のせいかしら』
「大事?」
臭いとはいったい何だろうかと思いながら、私とアシェル殿下はユグドラシル様に導かれるままに、妖精の国を進んでいった。
一見巨木が並ぶ美しい場所だけれど、よくよく見れば妖精たちの住まいがところどころにある。そして、そんな中を通り過ぎた奥に、美しい小さな泉があった。
泉の水は銀色にきらめき、大きく揺れた次の瞬間、その泉の後ろに、若木が一本生えているのが見えた。
その上に、透けるような白銀の羽をもつ、美しい妖精がいた。
あまりの美しさに私とアシェル殿下は息を呑む。
「お母様! 連れてまいりましたわ!」
『はぁぁ。今日は機嫌がいいみたい。よかったわぁ!』
その言葉に、妖精の女王様にも機嫌の良しあしがあるのだなと、私は内心思った。
まるで絵本の世界から飛び出してきたように美しく可愛らしい妖精の王女様を私とアシェル殿下は見つめながら言葉をまっていた。
すると、可愛らしい声が聞こえてきた。
「突然招いてしまい、驚いたでしょう。ですが、二人には話しておくことがあり、この場に招いたのです。私の名前はエターニア。妖精を統べる女王です」
『うふふふふ。さぁここは王女の威厳たっぷりの雰囲気でいきましょう!』
ユグドラシル様の茶目っ気たっぷりな性格はおそらく王女様から引き継いだのだろうなと、私は思った。
エターニアは立ち上がると私たちの目の前まで羽をはばたかせ飛んできた。そしてふんわりとスカートを揺らす。
「エターニア王女。本日はお招きありがとうございます。ですがあまりに突然なことに驚いています。理由をお聞かせ願えますか?」
『妖精は怒らせたら厄介だからなぁ。さぁ、上手く切り抜けていこう。エレノア! 頑張ろうね』
私はそれに小さく頷き返した。
仲良くしている時には妖精は頼もしい生き物だけれど、その性格は他の種族と比べても喜怒哀楽が激しく、何をするか分からない種族でもあるのだ。
エターニア様はうなずくと答えた。
「私たちにとっても厄介な相手であるあれが目覚めた」
『はぁ。厄介だわ。どうしたものかしらねぇ。おそらくこのエレノアという人間の娘は狙われるでしょうねぇ』
その言葉に私は一体何のことだろうかと疑問を抱く。
すると横からユグドラシル様が羽をブンブンと鳴らしながら声をあげた。
「ほら、この前捕まえた、半分腐っているチェルシーって女がいたでしょう? 彼女の臭い臭いにつられてあれが人間の国の建物を壊したって聞いたわ」
『やっぱりあの臭いにつられるわよね。いつかは来ると思っていたわ』
私はその言葉に顔をあげると声をあげた。
「チェルシー様ですか? あの、何か知っていることがあるのであれば、詳しく教えてください!」
その言葉に、エターニア様は大きくため息をつくと言った。
「人間の世界では、闇や悪魔といった単語で表現される生き物が、チェルシーという女を攫ったようです。そのチェルシーという女は相当な悪行を積んでいたとか。その臭い臭いにつられたのだと思います」
『餌にしたかもしれないし、まだ食べられていないかもしれない。こればかりは分からないわ。でも、警告はしておいてあげなくてはいけないでしょうね。ユグドラシルを助けてくれた純粋な乙女だもの』
エターニア様はそういうと私の方へと視線を移した。
「ユグドラシルを助けてくれたのは貴方でしょう? 本当にありがとう。この子が無事に妖精の国に帰ってこられたのは貴方のおかげだわ。感謝いたします」
『絶対に戻ってはこられないと思っていたのに、本当に感謝してもしきれないわ』
「いえ、そんな」
「だからこそ、そのお礼にと、事前に伝えているのです。これからあれは貴方を狙うでしょう」
『可哀そうに』
「え? それはどういうことなのですか!?」
『なんでエレノアが狙われるの? 意味が分からない! どういうこと!?』
アシェル殿下の焦った言葉にエターニア様は答えた。
「貴方からは清浄な清らかな香りがします。あれがそんな貴方の存在に気付かないはずがない。ですからいずれ、狙われるでしょう。アシェル殿下。妖精の国の恩人でもあるエレノアを、どうかよろしくお願いしますね」
『もし守れないというなら、妖精の国で引き取るのだけれど』
アシェル殿下は私の手をしっかりと握って答えた。
「もちろんです。エレノアは僕が守ります。あの、もう少し詳しく色々教えていただいてもいいでしょうか?」
『絶対に守る。だからエレノア心配しないで』
握られた手からは、アシェル殿下のぬくもりが伝わってきて、私の抱いた不安はすぐに消えたのであった。
エターニア様はその後私とアシェル殿下に、闇について話をしてくれた。
闇とは昔から存在するものであり、時には悪魔、時には魔物と呼ばれることもある存在であり、いつの世であっても暗闇から生まれいでてそして大きくなっていくのだという。
これまでも生まれいでては大きくなり、その度に、誰かしらが対処してきたのだという。
エターニア様も遥か昔に対峙したことがあるそうだが、思い出したくもないと顔を歪め、そしてあの腐ったような臭いはもう近くでは嗅ぎたくないと呟いていた。
そして今回の闇がが生まれたのはまだ最近の事だという。ただ、今回の闇は生まれてから突然大きくなった気配がしたと言っていた。
「エレノアのような匂いは、良くも悪くもいろんなものを引き付けるのです。おそらくいずれ闇も貴方の匂いにつられて現れるでしょう。そうなった時の為に、これを」
『ユグドラシルを封印するために作った特注品。おそらくこれならば闇も封印できるでしょう』
エターニア様はそういうと、ユグドラシル様が封印されていた壺を私に手渡した。それはユグドラシル様が帰る時に一緒に消えたものであり、アシェル殿下もその行方を気にされていたものであった。
「使う機会がないことが一番ですが、もしもの時にはお使いなさい」
『妖精の力を込めてあるから、闇にも対抗できるはず』
「ありがとうございます」
私は、イギリスの小説家ダイアナ・ウィン・ジョーンズさんが好きなのですが、彼女の作品に出てくる妖精は本当にこの世界にいそうです( *´艸`)そのくらい生き生き描けるくらいの力がほしいです。頑張ります!