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四話

文字数多いかもです! すみません!(´;ω;`)ウッ…

 僕は、静かに怒りを感じた。


 エレノアの両親であるローンチェスト家はよく言えば格式のある由緒正しい貴族の家である。


 だがしかし、エレノアの両親がやったことは虐待でしかない。


 基本的に貴族の令嬢、令息の教育というものは、家庭教師を雇うことが多い。昔は子どもの教育は両親が行うということもあったが、効率的ではなく、また、貴族という立場から教育が厳しくなりすぎることがあった。


 現在鞭を使うような教育は野蛮とされており、それは教育ではなく暴力であると非難される事実である。


 それがまさかエレノアがされているなんて、思いもしなかった。


 しかもエレノアは当たり前かのようにそれを受け入れていた。


 僕はそれが辛かった。


 これまで何度、痛みに耐えてきたのだろうか。


 これまでどれほど、涙を堪えてきたのだろうか。


 僕はそれを思うだけで胸が痛くなった。


 エレノアは頑張り屋さんだ。


 何事にも一生懸命に取り組む姿は尊敬できる。だけれど、これまで少しやりすぎではないかと思うほど熱心に学ぶことがあった。


 その根本に両親からの虐待があると考えるだけで吐き気がする。


「ハリー。ローンチェスト家に抗議文を送るぞ」


 そう告げると、ハリーはすぐさまに書類を準備し、僕の目の前へと差し出してきた。


「国王陛下にも確認を取っております。アシェル殿下の考えるとようにしろとのことでした」


 僕は先にハリーが根回しをしてくれていたことに感謝しながら、手紙を書いていく。


 エレノアの両親であるからこちらもこれまで丁寧に扱ってきたけれど、実の娘を何だと思っているのだろうか。


 僕は久しぶりに腹が立ってたまらなかった。


 エレノアの優しさを、エレノアの真面目さを、エレノアの頑張りを、これまで利用してきたのだ。


「これをローンチェスト家へすぐに届けるように」


「かしこまりました」


 こういう時、僕は第一王子に生まれてよかったと思う。


 ローンチェスト家は由緒正しい公爵家である。だがしかし、王家を蔑ろにできるような力はない。


「もう二度と、エレノアは傷つけさせない」


 僕はぐっとこぶしを力強く握った。


◇◇◇


 結局、私の両手首にはバラのような小さな痣がうっすらとあるけれど、あまりに小さくそれでいて薄いものだから、気づかれることはない。


 今日の午後アシェル殿下と会う予定となっているので、アシェル殿下には相談をしようと思いながら、私は図書館に向かって歩いていた。


 本当はすぐにでもアシェル殿下の所へと行きたかったのだけれど、連日自分の為に時間を割いてもらうのが申し訳なくてどちらにしても昼には会えるのだからと我慢することにした。


 今の所、何の以上もないことと、もしかしたらただの痣で昨日の事もただの夢という可能性も捨てきれなかった。


 何よりも自分自身が少し落ち着きたいと言う気持ちもあったのだ。


 サラン王国の王城の図書館というものは、一言で言って美しい。


 まるで教会のようなつくりをしており、壁一面に本棚が作られている。高い吹き抜けの天井は開放感があり、並べられている本一冊一冊が丁寧に作られており、それもまた美しい。


 私は元々本が読むことが好きだったので、実家でも時間があれば本を読んでいた。


 本を読んでいる時だけは、他人の心の声など意識をしなくてもよくて、集中すれば何の音も聞こえなくなった。熱中すれば熱中するほどに無駄な雑音が消えて、それが心地よかった。


 だからこそ今でも妃教育の休憩時間や休みの日など、することがない日は図書館に足を運ぶようになった。


 サラン王国の歴史や諸外国の本なども興味深く、私はそれらをじっくりと図書館で読む。


 そして、この図書館の良い所は、本を読んでいる場所でお茶を飲んだり軽食を食べれたりすることである。


 もちろん本を汚さないように細心の注意は必要であるが、初代の国王陛下が本を読みながらお茶を飲むのが一番の癒しの時間だったとかなんとかで、サラン王国のこの王城の図書館では許可されている。


 私は読みたい本を本棚から選ぶと、侍女に甘い香りの紅茶を入れてもらった。


 そして、本を開けば、もう誰の声も聞こえない。連日、嫌なことが続いているからこそ、心の声の聞こえない平穏な時間が、いつも以上に心地よかった。


◇◇◇


 そんなエレノアが本に集中して読んでいる姿を、アゼビアの王子で、王城に滞在中のジークフリードは少し離れたところからじっと見つめていた。


 元々ジークフリートはこの図書館をよく利用し、サラン王国のことについて学んでいたのだが、最近になってよくエレノアを見かけるようになったのである。


 エレノアは楽しそうに本を選んでは、集中して本を楽しそうに読んでいる。


 はっきり言って読んでいる本は簡単なものばかりではないし、そこまで楽しそうなタイトルではなさそうなのだが、エレノアはどの本を読んでいる時も、いつもよりも少し表情が緩んでいて、なんだかそれが可愛らしく感じられた。


 最初、『サラン王国の歴史と成り立ち』というチェスの駒よりも分厚い本を読んで微笑んでいる姿を見た時には正気の沙汰じゃないと思ったが、毎度毎度眺めていると、それすら微笑ましく思える。


「また、見てらっしゃるのですか?」


 いつの間にか傍に控えていたアレスにそう言われ、ジークフリートは視線をそちらに向けるわけではなく、独り言をつぶやくように言った。


「なんだか、視線が向いてしまうんだ」


 どうしてこうもエレノアのことが気になるのか、ジークフリート自身も不思議でならなかった。


 アレスが小さくため息をつくのが見えて、またいらぬことでも考えているのだろうと思いつつ、ジークフリートは小さくため息をついた。


 獣人の国。妖精、そして亡国の王子までもがエレノアという令嬢を気に入ってしまっているらしい。


 そうアレスから報告を受けた時には、人気者だなと思いつつ、心の中に何やらもやもやとしたものを抱いた。


 今まで感じたことのない感情に、何とも言えない気分になる。


 ただ、本を読むエレノアを見ているとその感情すらも心地よく思えてしまうからおかしなものだと、ジークフリートは頬杖をつきながら、小さく息を吐いた。


◇◇◇


 私は読んでいた本をぱたりと閉じると、大きく息を吐いた。


 本を読み終えた後の読了感がたまらない。そして大きく息を吸って、背筋を伸ばして、ゆっくりと息を吐く。


 読み終えた本の表紙を手でなでていると、静かだった世界がまたうるさくなり始め、現実へと引き戻されていく。


『エレノア嬢。今日も楽しそうに本を読んでいたな』


 聞こえてきた心の声に、私はため息をつきたくなるのをぐっと堪えた。


 図書館を使うのは自由なのでもちろん他の人がいるのは当たり前である。心の声にも慣れてはいるものの、読了後の声は通常よりも響いて聞こえる。


 特に最近、アゼビアの王子であるジークフリート様の心の声が静かな空間に響いて聞こえてくるようになっていた。


 最初の頃は、ジークフリート様がいるのかという思いと、まぁ視界には入っていないので問題ないだろうと思っていた。


 けれど、ジークフリート様の位置からはこちらがよく見えるのか、私のことを観察しているような呟きが多い。


『今日も分厚い本だったというのに、読むのがどんどん早くなるな。というか、あの本が面白いのか? 独特な趣味だな』


 私が今読んでいたのは薬草学初級という題名の物である。様々な植物について挿絵付きで詳しく載っていて、私としては面白かったのだけれど、ジークフリート様の好みではないらしい。


 ただ、現在気になっている心の声は、ジークフリート様のものではない。


『これほどジークフリート様が興味を持たれている人は初めて……秘密裏に誘拐するか? いや、それは問題があるか。ならば外交的にエレノア様をこちらの国へと嫁がせる手段を見つけるか? ふむ』


 やめてほしい。私は現状で幸せなので変な画策などしないでほしい。


 現実から少し目を反らして、一人の時間を楽しむことで心の平穏を取り戻していたと言うのに、心の声にげんなりとしてしまう。


 ジークフリート様の側近であるアレス様が最近変なことばかり考えているので怖くなりつつあった。


 どうしたものか。


 私はしばらくの間図書館に来るのはやめようかなと考えていた時であった。


 図書室内がバタバタとし始めて何かと思っていると、ハリー様がやってきて私の目の前へと来ると言った。


「時間がありません。急ぎ一緒に来てください」

『ぼん、きゅ、ぼーん!』


 焦っている様子なのにやはり頭の中で私はそう呼ばれているのかと、思ってしまう。


 何事かと思っているとジークフリート様もアレス様と共にばたばたとその場から立ち去っていく。


 私もハリー様と共に図書館を出たのだけれど、その焦った様子にいったい何があったのだろうかと不安になった。



 部屋の中に入ると、そこにはアシェル殿下が何人かの人と話をしている。


 私は侍女に促されて席に座るとお茶が目の前に準備されていく。


 それを見つめながら心の声を聴いていると、アシェル殿下の大きなため息が聞こえてきた。


『はあぁっぁぁぁぁぁ。エレノア。待たせてごめんね。ちょっと待ってね』


 私は小さく頷きながら待っているのだけれど、他の人達の心の声も聞こえてくるので、それに思わず顔を歪めそうになるのをぐっと堪えた。


『まさか、建物が半壊するとは……魔獣か?』

『まさかあの女が行方不明とは……』

『いったい何が起こっているのか。とにかく早急に見つけなければ』


 何が起こったのだろうか。アシェル殿下は話を早々に切り上げたようで、部屋の中にいた人達も部屋から出ていく。


 私の目の前に、疲れた様子のアシェル殿下が座った。


「エレノア。待たせてごめんね」

『あー。どこから話そうかなぁ。むぅ。』

 

 アシェル殿下は瞼を閉じると小さく息を吐いてから話し始めた。


「実はね、眠っていたチェルシー嬢が何者かの手によって連れ去られた。生死は不明。建物が半壊の状態で、一体何が起こったのか現状分かっていないんだ」


 その言葉に、私の心臓がどくりどくりと煩くなる。


 では、やはり昨日の事は夢ではなかったのだろうか。


 両手首にある痣に私は視線を向け、それから顔をアシェル殿下に向けた。


「意図的に連れ去られたという可能性もあるということですか?」


 アシェル殿下は首を横に振った。


「いや、おそらくは人間の仕業じゃないんだ」


「え?」


「というか、チェルシー嬢がいた建物が半壊で、しかも一夜にしてだから、人の手では難しいだろうっていう話になったんだ。はぁぁ。生死だけでも確認できたらよかったんだけどね」


 昨日のあの姿を思いだし、私は小さく息を吐く。


 生きている。しかもあの様子からして元気になっていた。


「アシェル殿下……」


「とりあえず、また何かわかり次第エレノアにも教えるよ。ただ今日ここに呼んだのはそれだけじゃないんだ」


 私達の言葉が重なり、私は昨日の事を話そうとした時であった。


部屋の中の空気が変わったような気がして私はあたりを見回した。


 アシェル殿下も異変に気が付き立ち上がると、私を守るように背にかばった。


「なんだ?」


 その時であった。


 部屋の中にファンファーレが鳴り響いたかと思うと、天井から色とりどりの花弁が舞い落ちてきた。


「え?」


「なんだ?」


「妖精の国に招待よ! エレノア! それにアシェル王子もいらっしゃい!」


「え?!」


 目の前にユグドラシル様が現れたかと思えば、私とアシェル殿下の目の前には扉が現れそれが開かれた。


この時期になると、町全体がクリスマスムードになりますね。百均のクリスマスコーナーにて、イルミネーショングッズを眺めて、窓一面にイルミネーション作ってみようかと悩んでます(/ω\)

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