六十五話 仲良しな二人
カザン様とユグドラシル様はとても楽しげな様子で部屋に入ると、当たり前のようにソファへと腰を下ろした。
この二人はとても賑やかで、貴族社会で生きてきた私にとってその賑やかさは心地のよいものだった。
そんな二人は、侍女が用意したお茶を一気に飲み干すと真剣な表情へと変わり、カザン様が静かに口を開いた。
「アシェル殿の協力のおかげで、ナナシに捕まっていた他の者達も、救出が無事に出来た。本当に感謝する」
ユグドラシル様もうなずき、言葉を足した。
「他に捕まっている子達がいないかちゃんと確認して、他にはいなかったから、これで取り敢えず一安心ね」
ナナシの言っていた獣人の子ども達も無事に救出されたことに私は安堵した。
聞くところによれば、あの事件の日からアシェル殿下はカザン様とユグドラシル様と協力をし、ナナシのこれまでの動きを徹底的に調査していたという。
サラン王国側からは自国内部で起こった事件ということで獣人の国へと正式に謝罪文を送り、今回の一件を速やかに対処する意向を伝えた。
ただし、今回事件が起こったのはサラン王国ではあるが、ナナシの国籍は不明であり、他の国でも悪行を重ねていたこともあり、サラン王国側に全ての責任があるわけではないとのことを、獣人の国側も了解しているとのことだった。
その後の話し合いにより、ナナシは、今回の一件にて獣人の国の刑罰が適応されることとなり、カザン様と共に獣人の国へと連行されることが決定した。
法で裁かれ、その上で、処罰が下されることとなる。
チェルシー様は、サラン王国の人間であることからサラン王国側の法で裁かれることが決定された。
「チェルシー様は、目覚めるのでしょうか?」
私がそう呟くと、ユグドラシル様は難しい顔をして言った。
「無理かもしれないわね。もはや生きてるのが奇跡レベルだもの。目覚めたとしても、体は動かないでしょうよ」
『いつ死んでもおかしくないわ』
ユグドラシル様の言葉に、私は膝の上に乗せている手をぎゅっと握り、ゆっくりと息を吐いた。
人の生死をこの世界で初めて身近に感じる。
アシェル殿下はそんな私の手を優しく握ってくれた。
温かな手の体温を感じ、私が力を少し抜いた時であった。
『うふふ。なになに。いちゃいちゃしてぇ~。可愛いわねぇ~』
『はぁぁ。ラブラブというやつか。若さがうらやましいなぁ』
二人の心の声に私は一気に顔がほてってしまう。
恥ずかしさから手を放そうと思ったのだが、アシェル殿下は私に笑みを向けると、手を先ほどよりも指を絡めてしっかりと握った。
恋人つなぎというやつに、私の心臓はうるさいくらいに鳴る。
『エレノア。もう少し繋がせていてね。牽制しておかないと、エレノアを攫われたらたまったもんじゃないからね』
アシェル殿下は心の声で私にそう伝えてくる。
攫われるとはどういう意味だろうかと思っていると、ユグドラシル様からもカザン様からも意味深な視線を向けられて、私は少し緊張してしまう。
心の声はぴたりと聞こえなくなり、何故か、ユグドラシル様とカザン様とアシェル殿下は笑顔で見つめ合っていた。
「まぁ、エレノアが幸せならいいのよ」
「そうだな」
「もちろん幸せにしますよ」
三人はそういうとまた笑い合い、私はどういう意味なのだろうかと、首をかしげるのであった。
今日の皆様のお昼は何でしょうか。美味しいものを食べてくださいませ。うらやましい(*'ω'*)