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六十三話 ずるい

(●´ω`●)

『ずるいずるいずるいずるい』


 チェルシー様の頭の中はその言葉で埋め尽くされており、私を仄暗い瞳でじっと見つめてくる。


『ヒロインは私、私、私……悪訳令嬢なのに……お父様、お父様……なんで……』


 バグが起こったかのように、心の声はひび割れている。泣いているような、悲鳴を上げているようなその心の声に、私の胸は痛くなる。


 苦しんでいるのが、心の声を通して届く。


『あぁもう! チェルシー。邪魔だな』


 それなのに、お父様と縋られている男は、まるで他人事のように冷ややかな声であった。


 冷たくて、人間を人間とも思ってもみていないような声は、今まで聞いてきた声のどれよりも冷ややかであり私は人間とはこうも他人に対して冷徹になれるのだと知った。


 それなのに。


『お父様! お父様! 私、私、わ、私が……私はヒロインだから』


 チェルシー様の声に涙が零れてしまう。


 もし私が、チェルシー様の立場として生まれ変わっていたらどうだったのだろうか。自分はヒロインだという立場で、異世界というわけのわからない世界で。


 もしもなんてことはない。


 それに、自分の人生をどう歩むかは自分自身である。それは分かっている。結局自分がどう行動したかによって運命は変わっていくということは分かっている。


 けれど。


「チェルシー様……」


 涙が零れてしまう。


 きっと彼女は大きな罪を犯し、たくさんの人を傷つけてきた。


 時間は戻ることはないし、犯した罪は消えない。


 けれど、今の彼女は悲鳴を上げて泣き叫んでいる。


 チェルシー様の瞳からは黒い涙が零れ落ち、そしてその翼は大きく広がると、悲鳴と共にその身は黒い鱗に覆われていく。


 全身に痛みと苦痛が広がっていくのだろう。


 声にもならない悲鳴が、うずまく。


 化け物に変わっていってしまう。


 人の心が薄れていく。


 チェルシー様から生えた巨大な爪が私に向かって振り下ろされた時、私の目の前には、大きな翼をもった竜の王子ノア様が立っていた。


 突然の登場に、私は唖然とする。


 何故ここに?


 ノア様は剣を引き抜くと、その剣は銀色に美しく輝いていた。


「今、楽にしてやる」


 恨みがあるはずなのに、ノア様の声は優しかった。そして次の瞬間、チェルシー様の体を剣が貫く。


「ぎゃかぁぁっぁぁっぁっぁぁっぁぁっぁ」

『いやぁぁぁっぁぁっぁぁ』


 悲鳴が聞こえた。


 この隙にと男が私を隠し通路へと引きずり込もうとした時、アシェル殿下が私の腕を引き、そして男をけり倒した。


 そんな男の首をノア様は尖った爪のある手で持ち上げ、地面にたたきつけた。


 私はアシェル殿下にしがみつきながら、男と、そしてチェルシー様へと視線を向ける。


 男はノア様に押さえつけられており、チェルシー様は地面に倒れていた。


「あ、アシェル殿下! ちぇ、チェルシー様が」


「あぁ……」


 真っ黒な血が、チェルシー様の周りに血だまりを作る。


 私は思わず、アシェル殿下の腕から抜け出て、チェルシー様の元へと駆け寄った。


「チェルシー様!」


「……ははっ……」


 チェルシー様は笑っていた。


『なんでかなぁ……私、バカだから……あぁ……違うな……私は愚かだったんだ。自分のことばかりで、人が死んでも、現実じゃなくて、ゲームみたいで、だから、私は死ぬんだ』


 どくどくと、黒い血がチェルシー様のお腹から溢れ出てくる。けれど、そのおかげか、黒い鱗に覆われていたチェルシー様の顔半分は、元に戻っていた。


「チェルシー様……」


 思わず私がチェルシー様の手を握ると、こちらをちらりと見て、悲し気に微笑まれた。


『ずるいなぁ……こんな時でさえ、綺麗だなんて……あぁ、あー。お父様、大丈夫かしら……ふふっ。バカだなぁ。お父様は私のことなんて、当の昔に見限っているのに。私だって捨てゴマにすぎないんだから』


 ノア様は男の足を切りつけ、そして身動きが取れない状況にすると、気を失わせてからこちらへと歩いてきた。


「……生き残るか、死ぬかは、この女の気力しだいだ」


 生き残ったとしても、罪から逃れることはできないだろう。私はそれでもチェルシー様の手を握ると、涙を流しながら叫んだ。


「頑張って。貴方は、貴方はちゃんと自分の罪と向き合うべきよ!」


 その言葉に、チェルシー様は悔しそうに顔を歪ませて、涙をこぼした。


『なんで……悪役令嬢のくせに……なんで、泣いてんのよ。私は、私は……大罪人なのに』


 その後、操られていた獣人達はカザン様の指揮の元、捕らえられ調べられることとなった。そして男の仲間だと思われる者達は捕まり牢へと入れられた。


 男には名前がなく、自分のことをナナシだと名乗った。そして、今回の首謀者として捕らえられた。


 チェルシー様は意識を失い、現在も意識不明のまま眠り続けている。


 その体は、半身が腐りかけており、生きながらに苦痛が続いているだろう。


 生きているのが不思議なほどだと、医者は言っていた。






 

お昼ですね。お腹すきますね。最近流行りの16時間断食ダイエットをしようと昨日奮い立ちましたが、初日からお腹がすいて16時間長いと、時計よ早く進めと願っていました(*´▽`*)


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― 新着の感想 ―
[気になる点] チェルシーのセリフの中に誤字がありました。 正 悪役令嬢 誤 悪訳令嬢 (最初のところ) [一言] これからも更新頑張ってください‼ 楽しみにしています‼
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