六十二話 心の声
遅くなりました!
甲冑を身に纏ったカザン様の指揮により、操られていた獣人達は次々と押さえつけられ、身柄を次々に拘束されていく。
笛が壊れたことで放心状態となった獣人達は自分自身に起こった出来事を理解出来ていないような表情を浮かべている。
私はとにかく操られていたことから解放されてよかったと思ったその時、男の腕はぎゅっと私の腰を抱き、そして、私の耳元で囁いた。
「言っておくが、獣人はまだまだ捕らえている。中には子どももいる。ふっ。俺についてくる気になったか?」
『脅したくはないがしょーがねーな』
その言葉に、私は驚くと男を見た。
『本当に美しいな。宝石みてーだ』
獣人を物のように扱い、命を軽く見ている男に私はぞっとした。
それと同時に、自分が一緒にいけば幼い命を救えるかもしれないということに、私の気持ちは揺らぐ。
行きたくはない。
けれど、行かなかった時に本当に他の獣人を救えるかどうかはわからない。
どうすればいいのか、私が戸惑った時だった。
『エレノア!』
アシェル殿下の私の名を呼ぶ声が、一際大きく聞こえた。
絶対に、私を信じてくれる。
私を助けてくれる。
そして、アシェル殿下はきっと獣人の子ども達についても最善を尽くしてくれる。
私は男を睨み付けた。
「アシェル殿下ならば、貴方がどんな企みをしていようとも、きっと他の獣人の子ども達も助けてくれるわ」
「はっ!? それはどうかな?」
『無理やりにでも連れていく!』
男は片腕で私を担ぎ、アシェル殿下の剣を受け止めると押し返す。
男の仲間達もその場には現れ、鋼がぶつかり合う音が響いた。
けれど明らかにこちらが優勢であった。
私はもがき、男の腕から逃れようとするが、男の力になすすべもない。
こういう時、自分の非力さが嫌になる。
『とにかく、地下通路へと逃げるが勝ちだな』
男の声にぞっとする。
けれど、すぐに聞こえたアシェル殿下の心の声に、私は落ち着きを取り戻した。
『エレノア! 大丈夫だよ! 絶対に助けるから無理に暴れないで! 怪我したら大変だから!』
私はうなずく。恐怖を感じながらも何も出来ない自分に嫌気がさす。
その時、私は、はっとした。
『絶対にエレノアを助けるんだ!』
『恩人を拐われるわけにはいかん! 息子達に顔向けが出来んわ!』
『エレノア! 大丈夫よ! 妖精に不可能はないわ!』
今まで、心の声が聞こえることは、私にとって苦痛でしかなかった。
心の声というものは、私にとって恐怖であり、そして欲をありのままに送りつけられる、苦痛なものであった。
けれど、今、私の心に響く声は、今までに感じたことのない程、優しいものばかりだ。
傷つきながらも、自分を守ろうとしてくれる者の存在が私の心を強くする。
『許さない』
「え?」
顔をあげ、空を見上げると、そこには恐ろしい形相でこちらを睨み付けるチェルシー様の姿があった。
今日は皆さまどうお過ごしでしょうか。こちらは天気が良く朝は心地の良い風が吹き抜けていきますが……午後になるとクーラーが欲しい気持ちが増大してきます('ω')