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五十八話 声

 アシェル殿下はそれからしばらくじっとハリー様を睨みつけており、ハリー様は視線を彷徨わせた後に口を開いた。


「あの、何でしょうか? 何かありましたか?」


「いや、何でもない。僕はお前がさらによく分からなくなっただけだよ。あぁ、咎めたいけど咎められないのが口惜しいよ。本当にね!」


 その言葉にハリー様は眉間にしわを寄せるとちらりと私の方を見た。


「僕? あの、王子様キャラはやめたのですか? 口調が……」


 その言葉にアシェル殿下が顔を赤らめた。


「なんだそれ。お前、そんなこと思ってたのか? え、どうしよう。他の人にもそう思われているってこと?」


「あ、いえ。口が滑りました。とにかくそろそろお時間ですので」


「わかっているよ。エレノア。それじゃあ行こうか?」


「は、はい」


 ハリー様は未だに訝し気な表情を浮かべているものの、会場内へとアシェル殿下を戻す方が先決と思っている様子であった。


 たしかに他の貴族たちへの挨拶もまだこれからである。きっとアシェル殿下が来るのを待ちわびている者たちもいるだろう。


 私はアシェル殿下にエスコートされて会場へと戻る。


 会場の中は相変わらず様々な声で溢れかえっていたが、アシェル殿下が横にいてくれるだけで私は安心できた。


「エレノア。聞こえたらすぐに教えて。僕と騎士で内々に取り押さえられるように手はずを整えるから」


「はい」


 私はその言葉に緊張しながら、会場内を見渡した。


 その時、あの男の声がまた聞こえてきた。


『やっと帰ってきたか……さぁ、そろそろ動き出すかな』


 私はちらりとアシェル殿下へと視線を向けた。その時であった。突然、会場内が真っ暗になったかと思うと、悲鳴と爆音、そして背筋が凍るような冷たさが会場内に広がっていった。


 人々の心も混乱の渦に包まれ、たくさんのあふれかえるような声に、私は耳を抑えた。


 そんな私の腰をぐっとアシェル殿下は抱くと腰の剣を抜き構えたのが気配でわかった。


 瞬きをしてしばらく、アシェル殿下を護衛の騎士たちが取り囲んでいることにも気づいたが、突然会場の中央が明るくなり、皆がそちらへと視線を向けた。


 そこには、一人の少女がみすぼらしい格好で立っていた。


「え……チェルシー……様?」


 視点が定まらないチェルシー様の首はうなだれており、その瞳は彷徨うばかりで何も映してはいない。


 いったい何が起こっているのだろうかと私が思った時、男の笑うような声が聞こえてきた。


『くくくっ。さぁ、最後のチェルシー、お前の舞台だ。楽しむがいいさ』


 チェルシー様の手には赤い液体の入った小瓶が握られており、それをチェルシー様が一気に飲み始めた時であった。


 会場内に黒い霧のようなものが立ちこみ始め、そしてそれはチェルシー様の体の周りを渦巻くと、翼のように大きく広がった。


「まさか、竜の血か!? 騎士達は全員舞踏会の参加者の避難を優先しろ! 第一騎士団は他の騎士達が参加者を避難させるまで盾となれ!」


 アシェル殿下は声をあげ、傍に控えてきた第一騎士団がチェルシー様を取り囲む。


 私はけらけらと笑いながら翼を大きく広げるチェルシー様の姿にぞっとした。そしてその姿を見た瞬間に、アプリゲームの画面の背景に映っていた黒い翼の存在を思い出す。


 あれは、悪役令嬢を悪魔のように見立てて翼をはやしたのではなかったのだということが、今になってわかる。


 フラグだったのか。


 人間が竜の血を取り込んで平気なわけがない。


「殿下! 殿下も急いで非難を!」


 ハリー様が声をあげ、アシェル殿下が私を抱き上げると騎士とうなずき合ってその場から離れようとした。


「だめよ……悪役令嬢は、ここにいなくちゃ」


 チェルシー様の声が耳元で聞こえた。



翼が生えたら、とりあえず何も考えずに空を飛んでいたいと思うけれど、飛んだら未確認飛行物体として捕まるのかな(*´ω`*)

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― 新着の感想 ―
[一言] チェルシー……いくところまでいっちゃったな。
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