五十七話 気を付けよう
アシェル殿下は深呼吸を何度も繰り返すと、私の方を見て言った。
「とにかく、まずは男を捕まえることを優先しよう。えっと、声が聞こえる件に関してはまた今度聞いてもいいかな?」
「はい。かまいません」
優しすぎる人だ。私はこの人のことを好きになれて良かったと思っていると、アシェル殿下は、少し視線をさ迷わせてから言った。
「あの、たまに、その、不埒なことを考えてしまうのは、男の性だから、本当にごめんなさい」
私はそれを聞いて、笑ってしまった。
アシェル殿下になら、不埒なことを考えられてもなんだか許してしまえる気がする。
好きになった欲目だろうか。
「ふふ。大丈夫です。アシェル殿下より不埒な考えての殿方はたくさんいらっしゃいますから」
その言葉に、アシェル殿下は一度固まると、少し目を細めて言った。
「エレノア。エレノアを対象に不埒なことを考えている者をまた教えてね。近づけさせないから」
「え? は、はい」
怒っているのだろうかと思ったが、アシェル殿下は静かに呟くように口を開いた。
「ずっとそんな声が聞こえるのは・・怖いよね。エレノアは美しいし、可愛いから特に大変だったよね・・出来る限り、僕がエレノアをこれからは守るから」
ドキリとした。
ずっと自分の気持ちを分かってもらうことなと無理だと思っていたのに、アシェル殿下は、私の気持ちを知ろうとしてくれる。
噂話など関係なく、私を見てくれる。
「ありがとう、ございます」
嬉しい。
アシェル殿下がいれば、人の声が聞こえることも怖くない。
「たくさん声が聞こえて大変かもしれないけど、男を放っておくことも出来ない。でも、辛くなったらすぐにいって」
「はい」
私はアシェル殿下と共に会場へと足を向けるが怖くなどない。
アシェル殿下が一緒ならばどこへだろうと怖がらずに進める気がした。
「ちなみに、ハリーの頭の中っていつも難しいこと考えている? たまに何考えてるのか疑問に思うことがあって・・あ、でも詳しくはプライバシーがあるから言わなくていいよ? ちょっと気になっただけだから」
アシェル殿下の質問に、私は何と返したらいいのだろうかと思っていると、丁度、ハリー様が姿を現した。
『ぼん、きゅ、ぼーーーん』
アシェル殿下が何考えてる?みたいな視線で私を見つめてくる。
何と答えるべきなのだろう。
私は小さくアシェル殿下にだけ聞こえるように口を動かした。
「ぼん、きゅ、ぼーーん」
ぽかんと、アシェル殿下が固まり、次の瞬間ハリー様を鋭い眼光で睨み付けた。
その視線に、ハリー様が固まる。
私は、やっぱり言っちゃダメだったと、人の心を勝手に伝えてしまったことを罪悪感を覚えた。
これからは気を付けようと思っていると、ハリー様が私に救いを求めるように視線を向けてきたのだった。
はりぃぃぃぃぃぃぃーーーー!!!!背後にきをつけろぉぉぉ!!(*´▽`*)