五十六話 告白
「見たのかい? すぐに騎士に言って捕らえよう」
『城の警備は何をしているんだ。エレノアから聞いた外見については騎士たちに伝えているはずなのに、どうやってそれをかいくぐったんだ』
憤るアシェル殿下の心の声に、私は呼吸を静かに整えると、ゆっくりと言葉にした。
「いいえ、見たのではありません。聞こえたんです」
「え? 聞こえた?」
『えっと、声で判別したということかな?』
私は首を横に振ると、手をぎゅっと握り、勇気を振り絞って口を開いた。
「私は……昔から人の心の声が聞こえます。会場で、あの男の心の声が聞こえました。ですから、もし変装していても心の声を聴けばわかります」
一瞬の間が空いた。
アシェル殿下の心の声も聞こえない静かな間。
私は、信じるとは思ったけれどこんな気持ちの悪い能力があると知られればどんな言葉を投げかけられてもしょうがない。
なんといわれるのだろうかと、私は静かに待った。
『え? どういうこと? 心の声が聞こえるって……この考えていることが聞こえるってこと?』
私は顔をあげると、アシェル殿下の瞳をじっと見つめてうなずいた。
「そうです。全て聞こえるんです。距離があっても、離れていても、聞こえます」
泣きたくなった。
もしかしたら今日でアシェル殿下とは会えなくなるかもしれない。アシェル殿下に拒否されて、もう二度と、会ってもらえないかもしれない。
そう考えると辛くて、涙を堪えた。
すると、次の瞬間アシェル殿下の顔が真っ赤に染まった。
『待って待って! って、ってことはさ、僕がエレノア見て可愛いとか考えていたことも筒抜け!?』
私は思っていた反応と少し違うなと思いながらも小さくうなずいた。
「はい……勝手に聞いてしまってごめんなさい」
頭を下げるとアシェル殿下は両手で自身の顔を両手で覆って、そして口を開いた。
「ごめん。ごめんごめん。僕、不快にさせたでしょ!? ごめん。僕って頭の中だと結構子どもっぽいというか、見た目王子様を意識していたから、あぁぁぁぁぁ。はずかしいぃぃぃぃぃ!」
アシェル殿下は考えていることをそのまま口に出しているのだろう。心の声が聞こえなくなり、私はどうしようかと思いながら言った。
「ごめんなさい……盗み聞きみたいですよね」
その言葉にアシェル殿下は目を見開くと、私の両肩に手を置いて、そしてゆっくりと言った。
「ごめん。違うよ。違うんだぁ。えっとね、エレノア。聞こえちゃうものは仕方ないよね。でもほら、僕ってかなりの猫かぶりだから。だからだから。その、恥ずかしかったんだよ」
顔を真っ赤にしながらアシェル殿下にそう言われ、私はその瞳を見つめた。
「気持ち、悪くないですか?」
「え? 気持ち悪くはないよ。だってしょうがないでしょう?体質なら。でもさ、あぁぁぁ。ごめん。ただ恥ずかしくて情けなくて、もうあぁぁぁぁ」
何とも言えない悶絶の声をあげたアシェル殿下は、大きく深呼吸をすると言った。
「とにかく、わかった。エレノアの前では出来るだけ心の声そのまましゃべるよ。そうすればエレノアも気にしなくていいでしょう?」
「え? ……そんなことが、出来ますか?」
「ん? うん。多分。ちょっと努力する。でも。ああっぁぁぁ。しばらく悶絶するのは許して。もう、恥ずかしい。穴があったら入りたい」
そういうアシェル殿下の言葉に、私は涙が零れ落ちた。
怖かった。
拒絶されるのが。
怖かった。
嫌われるのが。
なのに、なんて優しい人なんだろう。
「エレノア!? エレノア!? ごめん。僕気持ち悪い? えっと、ごめんーーーー」
この人が好き。
私はアシェル殿下の胸に抱き着き、そう、思った。
私だったらもう悶絶して悶絶して、うん。(●´ω`●)






