五十五話 信じる
私はこれからどうするべきか考えていた。
もし今回を逃せば、いつ捕まえられるかは分からない。その間、自分が狙われていることにおびえて過ごすのなんて嫌なことである。
ではどうすればいいのか。
私は、ちらりとアシェル殿下を見上げた。
こちらの視線に気づいたアシェル殿下は、どうしたのかと気遣うように視線を返してきてくれる。
『エレノア? どうかしたのかな? っく。今日も可愛いなぁ。あー。あんまり見つめるのは目の毒だなぁ』
可愛らしいのはアシェル殿下の方である。
けれど、アシェル殿下は可愛いだけの人ではない。
私のことを信じて、守ってくれる人。
信じても、良い人。
私の大切な人。
心を読む力のせいで、今まで人のことを信じられずに生きてきた。
どんな人間も、表と裏の顔があり、裏では私のことを酷い言い方をしている者たちばかりだった。
『淫乱な女』
『男をたぶらかす体』
『媚びを売り、見た目だけでちやほやとされている』
私の外見を揶揄して様々な言葉を心の中でこちらに投げつけてくる。
生々しい性の対象とされる視線。
私自身ではなく、私の外見と体に集まる醜悪な言葉。
けれど、アシェル殿下は違う。
いつも、私のことを、私自身を見て考えてくれる人。
優しい人。
私はアシェル殿下とのファーストダンスを踊り、会場中が、私たちに視線を集めるのを感じる。
そうすれば、私へ向けられる言葉も変わっていく。
『お似合いだわ』
『素敵。物語の王子様とお姫様ね』
『わぁ。美男美女とは、お二人のことね』
この人といれば、私は変われる。
拍手と共に私たちのダンスは終わり、私たちは会場に一礼をしてから、移動をする。
テラスへと出ると、夜風が頬をかすめていく。従者がアシェル殿下に飲み物を渡し、その一つを私へとアシェル殿下が差し出してくれる。
さっぱりとした柑橘系の飲み物に、私は笑みをこぼす。
「私、これ好きだってお伝えしましたか?」
アシェル殿下は微笑んで答えた。
「違いましたか?」
『好きそうだったけど、あれ? 違ったかな?』
「いえ、好きです」
私の外見から強いお酒ばかりを差し出そうとする男性たちのことを思い出し、私はくすりと笑ってしまう。
そして、心を決めると、侍女と従者に目配せで離れるように伝える。
アシェル殿下は小首をかしげるが私の行動を止めようとはしない。
「エレノア? どうかしたのかい?」
『何かな?』
私は意を決して、口を開いた。
「会場内に、先日、私の部屋に忍び込んできた男がいるようです」
アシェル殿下は驚きの表情を一瞬浮かべたのちに、瞳が真剣なものへと変わる。
私は、手をぎゅっと握り、そして、覚悟を決めた。
さぁぁぁぁぁぁ!!頑張るぞ!(*'ω'*)