五十四話 舞踏会
男と会ってからしばらくたち、私は久しぶりに開かれる舞踏会に参加することが決まった。アシェル殿下は無理して参加する必要はないと言ったけれど、私が参加したかったのだ。
あまり長く社交界を休むと、いらぬ噂がたつ可能性もある。
現在男についてもチェルシー様についても内々に調べが進められているという。
もちろんエスコートをしてくれるのはアシェル殿下であり、私は多少浮かれながら、舞踏会の準備を済ませ、アシェル殿下を待っていた。
舞踏会は、今でもあまり好きではない。
けれど、アシェル殿下と一緒にいられることは、とても嬉しかった。
「エレノア。今日もきれいだ」
『はぁぁぁぁぁ。可愛い。本当に。ねぇ? そんなに可愛くってどうするのさ』
『ぼん、きゅ、ぼん』
私は微笑みをアシェル殿下に向ける。
アシェル殿下もハリー様もいつも通りで私はあの男が現れた夜が今では幻だったのではないかと思えるほどだった。
あの日以来、何も起こらない。
チェルシー様への尋問は進んでいるようだが、結局はそれ以上進展はなく、チェルシー様が言っていた拠点には誰もいなかったのだということであった。
チェルシー様もそれを聞き、自分が切られたことを悟ったのか、それ以来、以前のような明るさはなくなったという。
私は、この世界はゲームではないのだと改めて思いながら、今後どうなるのだろうかと心配になっていた。
ただ、今日は久しぶりの舞踏会であり、心配する思いは忘れようと、アシェル殿下に差し出された手を取った。
「アシェル殿下も素敵です」
「ありがとう。では行こうか」
『可愛いなぁ。もう。』
「はい」
アシェル殿下の手を取り、舞踏会の会場へと移動する。
長い渡り廊下を抜け、そして舞踏会会場の入り口に立つ。この時が私は一番苦手だ。
人々の洪水のような声にいつも頭の中がぐるぐると渦巻き、気分が悪くなる。けれど、アシェル殿下の手を握っていると、それも大丈夫のように思えた。
ファンファーレと共に、私とアシェル殿下は会場へと入場し、たくさんの人々の拍手を受ける。
それと同時に渦のように人々の心の声が私の耳をつんざいていく。私はそれを表に出さないようにしながら微笑みを携える。
その時だった。
『さぁ、今日は君を連れて帰れるといいなぁ』
あの男の声が、私の頭の中に響き渡った。
この会場のどこかにいる。
それが分かった瞬間、私は恐怖を感じた。
「エレノア?」
『どうかしたのかな?』
横にはアシェル殿下がいた。私はそれを思い出し、微笑みを顔に張り付け、そしてアシェル殿下の腕をぎゅっと握った。
「なんでもありませんわ。行きましょう」
ここは城の舞踏会である。男を捕まえるなら今日が勝負になるかもしれない。
私は覚悟を決めると、会場へお足を進めたのであった。
とりあえず、後少し!! 勢いで乗り切る( *´艸`)