五十三話 チェルシーについて
あの男について、私はチェルシーの関係者であろうことをアシェル殿下に伝えた。
アシェル殿下はすぐに私の身辺の警護を増やし、窓の外にも必ず誰かが立つようになった。
前回二階だったのにも関わらず侵入者があったことから、王城内全体の警備も見直されているようであった。
『ぼん、きゅ、ぼん』
ハリー様の安定の久しぶりの心の声に、私は和んでしまう。いやらしさがない分、聞いていても不快ではなく、それでいて、いつもこれなので、なんとなくあぁ久しぶりに聞いたなぁなんてつい微笑みを向けてしまった。
「エレノア?」
『なんでハリーにそんな笑顔向けるんだ? え? ちょっと待って、ハリーだよ?』
アシェル殿下の声に、慌ててアシェル殿下へと視線を向けると言った。
「すみません。なんだかハリー様に会うのも久しぶりな気がして……なんだか、いつもの日常にほっとしたというか、なんというか……」
「あぁ。なるほど。それなら……よかった」
『いや、よくないよくない。え? ハリーだよ? ちょっと、ハリーをエレノアに近づけるのはやめよう。くっ。僕ってこんなに嫉妬深かったかなぁ』
そんなことを呟くアシェル殿下を見つめながら、やっぱり可愛い人だなぁ、この人の傍に入れたら幸せだろうなぁなんてことを思う。
「エレノア。話を戻すけれど、チェルシー嬢について。彼女は今もよくわからないことをずっと言っているんだ。私はヒロインだとか、エレノアは悪役令嬢だとか……おそらく、精神的に狂っているのかもしれない」
『会話にならないんだよなぁ。しかも略奪ゲームとか……エレノアの婚約者は僕だし、エレノアは浮気なんてしてないのに。むぅ』
「そう、ですか……」
「おそらく、エレノアの部屋に現れたのは、チェルシー嬢のおそらく父親のような存在の男なのだと思う。彼女の会話からもよくその男のことが出るから。ただし、何者なのかも、年齢も、国籍もわかっていない。ただし、チェルシー嬢の自白と現状の証拠で彼らが竜の王国を亡ぼしたことに関与しているのは間違いない」
『恐ろしい。竜の国を亡ぼしても、平然と生きていることも、人の命を何とも思っていない言動も……』
その言葉に私はうなずきながら、アシェル殿下同様に恐ろしいなと感じる。
国を亡ぼしても、何とも思っていないのだろう。
男は私に対して対等に話をしてきたが、普通ならばそんなことをするような男ではないのだろう。
私は思わず拳を強く握った。
欲と血にまみれた金を使って自分を囲おうとした男に対して、私は人間とは恐ろしい生き物だなと改めて思う。
そんな金で幸せになれるものか。
私は自分のことを心配そうにこちらを見つめるアシェル殿下に視線を返し口を開いた。
「また、現れるでしょうか……」
「わからない。ただし、何があろうと君は私が守る」
『エレノアには近づけない。絶対に』
私はアシェル殿下の言葉が嬉しくて笑みを返した。その時また、いつもの声が聞こえて私は吹き出しそうになるのをぐっと堪えたのであった。
『ぼん、きゅ、ぼん。はぁ。また仕事が増える』
ハリー様の頭の中は未だによくわからないものだ。
はりぃぃぃぃぃぃぃーーーー!!!!(ポッターではない)(●´ω`●)