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五十二話 見知らぬ男

 黒い服に身を包み、窓際からこちらを睨み付ける男に、私は身をこわばらせた。


 人の気配と、心の声が聞こえたと思ったら部屋に人がいたのである。


 明らかに不審者である。


 護衛の騎士たちは部屋の外に待機しているはずである。呼ばなければと思うが、恐怖から身動きがとれない。


『この女か欲しい』


 その欲求に私は身の危険を強く感じた。


 どうすればいいのだろうか。


『チェルシーがこんないい女に勝てるわけがない。はぁ。俺も人生を棒に振るかもなぁ』


 その声に、私はチェルシー様の知り合いなのだとさらに早く逃げなければと思った。


「なぁ、べっぴんさん」


「え?」


 突然話しかけられ私はドキリとした。


 その声は想像よりも柔らかで、こちらに向かってまるで交渉するように言葉を続けた。


「俺はあんたが欲しい。金も宝石も願うものはなんでも揃えてやる。だから俺のとこにこないか?」

『くそっ。何が好きかわからねぇから、困るな』


 突然の申し出に、私は首を横に振った。


 見知らぬ男の元になど、行きたいわけがない。


 お金などの問題ではない。


「大切にするし、自由だって制限はしねぇ。こんな城で飼われるより自由に生きられるぜ?」

『こんな城で飼われるより絶対幸せにしてやれる』


 女性の貴族は基本的には家に縛られるものであり、平民のような自由はないだろう。


 だからと言って寝室に忍び込んでくるような男の元へ行くわけがない。


 それに、私にはアシェル殿下がいる。


「私は、大切に思う方がいますので、行きません」


 その言葉に男は驚いたように目を丸くした。


『チェルシーは悪役令嬢は男好きで、男を侍らせていると言ってたが、ん? 違うのか・・・ちょっと待てよ。チェルシーはなんつってた? 上手くいかない。悪役令嬢が働かない・・やっぱり、悪役令嬢が、転生者か?』


 頭の中で思考を巡らせる男に、私はドキリとした。


 転生者。


 チェルシー様以外にもいたのかと内心で驚いてしまう。


『あー。この世界転生者が多すぎるだろ』


 男は頭を乱暴に掻くと言った。


「勝手に配役されて、悔しくないのか? 俺と来れば少なくとも、自分の人生を歩めるぜ」

『転生したもの同士仲良くできるはず』


 私は静かに男の瞳を見つめると、自身の中で少し考える。


 確かに、生まれ変わった当初はそう思うこともあった。


 勝手に人の心の声が聞こえてくるということに戸惑い、このままは自分はいつか狂ってしまうのではないかと悩んだ。


 しかし、今は違う。


 アシェル殿下が、私にはいる。


 この配役でなかったらきっとアシェル殿下には出会えなかった。


「私は、今、幸せなのです。ですから、貴方と共にはいきません」


 はっきりと告げると、男は眉間にしわを寄せ、そして大きくため息をついた。


「んー。そりゃ困った。俺はお前が欲しい」

『無理やり連れさるのはなぁ……どうしたもんか』


 その時、部屋の扉がノックされた。


「エレノア様? あの、話し声が聞こえるのですが、おきていらっしゃいますか?」


 侍女の声に、私はほっとした。けれどその時、男が突然自分の目の前へと移動してくると、私の頬にキスをした。


「まぁ、今日のところは諦める。だが、俺は欲しい物は全て手に入れるタイプなんだ」

『連れ去って嫌われても困る』


 私は男を睨みつけるとはっきりと言った。


「貴方のように、私を物と考える人の所には絶対に参りません。見た目だけで人を物のように扱う男など、願い下げです」


 男は驚いたように目を丸くした。


「エレノア様!? 失礼いたします!」


 侍女が入ってきた瞬間、男は窓から逃げる。


 侍女は悲鳴を上げて、護衛の騎士達が男の後を追う。


「エレノア様!? 大丈夫でございますか!?」

『なんと不埒な! エレノア様ほどお美しいと、部屋の中ですら、安全ではないのですね……私がもっとしっかりとお守りしなくては!』


 人が来てくれたとの安堵で、私は、そのまま力が抜けるようにへたり込んだ。







王宮の警備よ。おいと思いつつ、物語の進行上……許せ。(●´ω`●)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] えー????んー主人公は心が綺麗だから妖精からの情報をもらったときに婚約者に伝えなかったの??報連相はしっかりしようぜ
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