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五十話 チェルシー捕獲計画

 その時、私は部屋の外からたくさんの人の心の声が聞こえ始めた。そこにはどうやらアシェル殿下もいるようで、現在チェルシー様捕獲計画なるものが進められていることを私は知る。


『エレノア! あと少しですべて整う! すぐに助けに行く!』


 本当は今すぐにでも中に飛び込みたいという思いを、全体の指揮を執っているアシェル殿下は押し込めているようで、苦しい胸の内の感情も流れ込んでくる。


 私は呼吸を整えると、時間稼ぎをするべく、出来るだけ会話を伸ばそうと口を開いた。


「チェルシー様……あの、何故このようなことをするのです?」


 チェルシー様は手を止めると小首をかしげた。


「楽しいからよ? だってこの世界は私の為の世界。それなのに、楽しまないのは損でしょう?」

『私はヒロインよ。当り前でしょう?』


「チェルシー様の……世界。どうしてそう思うのです? 今、チェルシー様の思い通りに世界は動いていますか? 違うのではないですか? チェルシー様の世界ならば、殿下に追われることはないはずです」


 その言葉に、チェルシー様は息をのむ。


 そして少し考えこむように眉間にしわを寄せた。


『で、でも、ここはゲームの世界であって、私がヒロインのはず……お父様だって、私の為に世界はあるのだと言っていたわ。お前がいれば世界は全てうまくいくって……』


 ”お父様”。チェルシー様の言うお父様とは一体何者なのだろうか。


「……チェルシー様は……本当にこれでいいと思っているのですか?」


「う、うるさいわ! だって、お父様が言ったもの! お前がこの世界の中心だと! ヒロインだって! そうよ。私もちゃんと覚えている。お父様は私の言葉を信じてくれて……私はヒロイン! あなたが悪役令嬢よ!」

『お父様の言うことが全て正しいはずよ! お父様は……お父様は私の神様なんだから!』


 私の瞳に映るチェルシー様の顔は歪んでいて、ヒロインと呼ぶにはあまりにも恐ろしい顔をしていた。


「……では、ヒロインであるチェルシー様は、今、幸せなのですか?」


「え?」


 チェルシー様が動きを止め、へたりと、ベッドに座り込む。


 私は体を起き上がらせ、尋ねた。


「幸せなのですか?」


『幸せ? しあわせ……? 私は今、幸せ? 幸せじゃないわ。だって何も手に入れていないわ。アシェル殿下も、攻略対象者も、誰一人、私の手の中にはいない……どうして? お父様の言うとおりにしたのに。ちゃんとヒロインとして行動したのに……』


 その時、騎士達が部屋になだれ込み、チェルシー様は慌てて隠し通路の入り口から逃げようとするが、そこからも騎士たちが現れ、チェルシー様は押さえつけられた。


「はっ! 離しなさいよ! 私は、私はチェルシー! ヒロインなのよ!」

『やめてやめてやめてやめてよ。怖い。なんで? なんで一つも思うとおりにならないのよ! 略奪ゲームのはずなのに……なんで、なんでよ!』


 アシェル殿下は私の傍にやってくると、ほっとした様子で言った。


「遅くなってすまない。大丈夫か?」

『エレノア。ごめんね。遅くなったよね。怖かったよね。ごめんね』


 私はほっとしてアシェル殿下の胸に縋りつくように身を寄せた。


「はい。大丈夫です……」


「離してよ! 離して!」

『なんで……なんでよ!』


 私はチェルシー様のお父様とは何者だろうかと思いながら、今はアシェル殿下の傍で緊張の糸がとぎれ、ほっと胸をなでおろしたのであった。

 

捕獲……もはや珍獣扱い。

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