四十九話 ヒロインがヒロインではない
私は少しずつ意識が戻っていくのを感じていると、たくさんの心の声が聞こえ始めた。
『わぁっ。美しすぎる……うちの医者様たちが耐えきれて本当によかったわぁ。だってそうじゃなきゃ、こんな美しい人ほおっておけないものねぇ』
『お医者様、数人が交代で入れ代わり立ち代わり対応されていたわねぇ……股間を抑えながら入れ替わるの、本当に気持ち悪いわ』
『エレノア様。大丈夫ですよぉ。ここには獣はおりませんからねぇ。ちゃんと貴方様の侍女が追い払いましたから安心してくださいませねぇ』
侍女たちの声に、内心で笑いそうになりながら、私はゆっくりと目を開けた。
そこは自室であり、侍女たちは私が目を覚ますと嬉しそうに駆け寄り、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。
医者から処方された薬によって、体の中の媚薬も抜けたようでかなり体もすっきりとしている。
ただ、喉が痛い。なので小さな声で私は尋ねた。
「アシェル殿下は?」
「今回の一件を片づけるとおっしゃっておりました。エレノア様はここでお休みくださいませ」
『殿下は何か行動される様子だったし、私たちがエレノア様をお守りしなくては』
「そう、なの。わかったわ。私はもう少し眠るから、貴方たちも一度下がって、少しゆっくりして?」
「では、外に控えておりますので、何かありましたらすぐにお呼びください」
『ちゃんと外に待機しております!』
侍女たちを下がらせ、私はベッドに横になると大きく息をついた。
今回の一件でチェルシー嬢をどうにか処罰できるのだろうか。そう考えていた時であった。
「あー。本当にむかつく」
「え?」
私は思わずがばりと起き上がり、壁にもたれかかりながらこちらを睨みつけてくるチェルシー嬢を見つけて目を丸くした。
いつの間に部屋に入ってきたのか、どこから入ってきたのか、私にはわからない。
ただ、この城の壁の中には、隠し通路なるものがかなりの数ある。
だがまさか自分の部屋に通じるものがあるとは思っていなかった。
私は大きな声は出せないと、侍女を呼ぶ鈴にそっと手を伸ばそうとするが、それをすぐにチェルシー嬢にとられて手の届か会い別の机の上に置かれてしまう。
「チェルシー様?」
「おい悪女。あんた、ちゃんと自分の役割わかってる?」
『本当にむかつく女』
舌打ちをしながらこちらを睨みつけてくるその姿に、私はヒロインがヒロインではないと呆然としてしまう。
「あー! あんたのせいでなんか変な方向に行ってるんだけど。なんで私が捕まえられなきゃいけないのよ。まぁ、私を捕まえようなんて、百年早いけど。私ほど、この城の内部を熟知している女はいないしね」
『私をなめるんじゃないっての』
チェルシー嬢はそういうと、私の方へと歩み寄り、ベッドの上へと上ると、私に馬乗りになった。
「な、何を」
私は恐怖で身動きできずにいると、なぜか、チェルシー嬢は舌なめずりをして、にやりと笑った。
「まぁ、こうなったらなんか腹いせしないと、本当にむかつくから」
『ふふっ』
どういうことかわからず、どうにかチェルシー嬢を自分の上から降ろそうと手で押してみるが、両手をベッドに押さえつけられてしまう。
この状況はどういうことだろうか。
自分をまさか殺す気だろうか。
そう思うと血の気が引くが、なぜか片手で私の両手を抑えたチェルシー嬢は、もう片方の手で私の頬を気持ちの悪い手つきでなでた。
「まぁ、元々、顔は好みよ?」
『ふふ。私、両方いけるたちだから、せっかくだし楽しませてもらおうかしらね』
両方いけるとはどういうことなのかわからず、私は痛む喉ではあったが誰かを呼ぼうと叫ぼうとした。
両方いける……まじか。