四十八話 試される理性 アシェル視点
ーどういうことだよ。これ。あぁぁぁ。エレノア?! これはあれだ。媚薬か何かだ。あぁぁ。なんで。こんなエレノアの悩ましい姿、誰にも見せたくない。けど、このままにはできないし。
アシェルは、バクバクと鳴る心臓をどうにか抑えながら、潤んだ瞳で自分に縋りついてくるエレノアを抱き上げると、急いで医務室へと運ぶ。
「ぁ……んぅ……」
エレノアから時折漏れる声はアシェルの理性を大いに揺さぶった。
ーわぁぁぁぁ。なんで、なんで。エレノア。だめだ。しっかりしろ。僕! 負けるな! 僕!
いつも美しいエレノアが今日は何倍も甘い香りを放ち、自分を見つめてくる。
「アシェル……殿下……申し訳ありません……ん」
「もう医務室につく。心配するな」
そう言いながらも、縋りついてくるエレノアが可愛くて、アシェルはぎゅっと抱きしめる手に力を入れた。
ー可愛すぎるのは罪だよ。わぁっぁぁ。
アシェルは医務室へと運ぶと、医師に向かっていった。
「エレノアの様子がおかしい! おそらくは媚薬か何かの類ではないかと思うが、調べてくれ」
医師は急いで行動し、アシェルはカーテン越しにエレノアのうめくような声を聴きながら両手で顔を覆って苛立ちを隠した。
ゆっくりと自分の中が冷静になり始め、そして頭が研ぎ澄まされていく。
誰が原因かは、明らかである。
ーチェルシー嬢……まさか媚薬を使ってくるとはね。エレノアは、おそらくは僕の代わりに媚薬を飲んだんだろう……はぁ。なんで気づかなかったんだ。僕の落ち度だ。
自分であればあらゆる毒や媚薬に関してもある程度は耐性をもっているというのに、エレノアは、自分のために飲んでくれたのだろうと、アシェルは考えて小さく息をつく。
何故気づいたのかは、後にエレノアに尋ねなければならないだろう。
その時、医務室へと一人の侍女が青ざめた顔でやってくると、アシェルの目の前に頭を垂れ、泣きながら床に手をついた。
「申し訳ございません……私が入れたお茶が原因でございます……」
震える声。
その様子に、アシェルは目を細めると尋ねた。
「頭をあげろ。知っていることを全て話せ」
「はい……」
侍女は、チェルシーに命じられて媚薬を使ったことや、自分の家族が人質に取られていることを告げた。
その言葉に、アシェルはなるほどとうなずくと、笑みを浮かべた。
「君にチャンスをやろう」
顔面蒼白な侍女は、がくがくと震えながらもうなずいた。
「チェルシー嬢はね、どうもしっぽを隠すのがうますぎてね……あれだけ大胆な動きをするというのに、なぜか捕まらない。だからこそ今度こそしっぽを捕まえたい」
「……はい」
「これ以上、野放しにするのは、もうやめよう」
苦しそうなうめき声のエレノアの方へとカーテン越しに視線を向けると、アシェルは言った。
「さぁ、行動に移そうか……」
アシェルは立ち上がると、ハリーが資料をもって現れる。そしてそれらをアシェルに手渡し、指示を待つ。
「エレノアを守るように。そろそろ、泳がせるのはやめて、捕まえにかかるぞ」
「はっ。では、捜査に出している者たちの一部を呼び戻します」
「決着をつけるとしよう」
アシェルは静かに、行動を開始し始めた。
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