四十七話 媚薬をどうしろと
朝の日差しが、優しく部屋を包み込む。
私はゆっくりとベッドから起き上がると、身支度を侍女と共に済ませた。
「エレノア様? 調子でもお悪いですか?」
いつもとは少し様子の違うと感じたのか、侍女にそう声をかけられて、私は慌てて首を横に降った。
「そうではないのよ。心配をかけてしまってごめんなさいね」
ただ、アシェル殿下の夢を見た為、何となくもったいなかったなぁ、まだ夢が覚めなければよかったのになぁ、なんて事を考えていたとは言えない。
「いえ、体調が悪くないのであれば良かったです。なんでも、あの、王城に今保護されていますチェルシー様は体調が優れないようですので、エレノア様も体調に不調があればすぐに教えてくださいませ」
『チェルシー様は仮病のようだけれど。エレノア様が体調を崩したら大事だわ! 私がちゃんと見ておかなければ! エレノア様の体調は私が守るわ!』
侍女の心の声には微笑ましくなりながらも、チェルシー様の件に、私は思わず眉間にシワを寄せてしまった。
「本当に? まぁ、それは心配ね・・」
そうは口にしつつも、嫌な予感がしてならない。
私は朝食を済ませると、チェルシー様の部屋へと足を向かわせた。
何か嫌な予感がする。
扉の前でどうしようかと悩んでいた時であった。
アシェル殿下が姿を現し、私を見つけると小首をかしげた。
「エレノア? おはよう。どうしたんだい?」
『どうしてここに?』
「アシェル殿下。おはようございます。チェルシー様の調子が悪いと聞いて心配になりまして、少し様子を見にきてしまいました」
その時であった。
アシェル殿下の声を聞きつけたチェルシー様が扉をすごい勢いで開けると、ふらりとよろめきながらアシェル殿下へとしなだれかかったのである。
「アシェル様ぁ~。私もう、辛くて~」
『ふふふっ! やっと来たわね! さぁこれからが楽しみね!』
心の中で意気揚々とした様子のチェルシー様に、私は一体何を企んでいるのだろうかと思っていると、チェルシー様は私を見て驚いた顔を浮かべた後に、嫌そうに顔をゆがめた。
「え、エレノア様? どうしてここに?」
『すっごく邪魔だわ。えー。どうしよう』
アシェル殿下はしなだれかかるチェルシー様を抱き上げると、失礼と声をかけ、ベッドへと運んだ。私はそれを見つめながら、仕方がないことだと思いながらも、少しだけ煮え切らない思いを抱いてしまう。
部屋へと私も入り、チェルシー様はベッドに横になり、私たちはその横の椅子へと腰掛けた。
その時である。
顔色の悪い侍女が一人お茶の準備を始めた。
『や、やらなきゃ……でも、本当に大丈夫なの? だめよ。家族が……人質に取られているんだから……』
その心の声に、私は眉間にしわを寄せた。
『び、媚薬だって言っていたわ。大丈夫……毒じゃない……殿下に飲ませるだけ……』
媚薬という言葉に私は内心で焦りながら、それを一体何に使うつもりだとチェルシー様をちらりと見る。
『うふふ。エレノア様はとってもお邪魔だけど、すぐに追い出して、媚薬を飲んだアシェル様とお楽しみの時間よ』
お楽しみの時間?
私は顔を真っ赤に染め上げ、媚薬をどうしろというのだと焦る。
侍女は、小さな机を準備し、その上へと紅茶を置いた。
「アシェル様、エレノア様、今日はお見舞いに来てくださってありがとうございますぅ。さぁ、お茶でも召し上がってくださいな」
『うふふ~。さぁ、媚薬を飲んで楽しみましょう?』
私はそのチェルシー様の心の声に覚悟を決めると、声をあげた。
「あら、見てくださいませ。窓の外に珍しい小鳥が飛んでいますわ」
「え?」
「ん?」
ちらりとそちらへとチェルシー様とアシェル殿下が視線をそちらへと向けた瞬間、私は奥の方に準備されたアシェル殿下の紅茶をさっと取った。
侍女が驚いた表情で私の方を見たが、私は視線で黙っているように伝えた。
彼女も何かしらの事情があるのだろう。チェルシー様の悪事を暴く手立てとなりえるかもしれない。
チェルシー様とアシェル殿下は視線を戻すと、私を見る。
「あら、気のせいだったみたいですわ。それよりアシェル殿下、チェルシー様は調子が悪いようですし、お茶を飲んだらすぐにお暇いたしましょう?」
その言葉にチェルシー様は焦った様子だが、アシェル殿下がすぐにうなずいた。
「そうだね。ではチェルシー嬢、これを頂いたら失礼するよ」
『この様子からしてやはり仮病みたいだなぁ。はぁ』
『だ、だめよ! 』
しかし、アシェル殿下は紅茶を飲み、私の方へと視線を向ける。どうやら私が一口口をつけるのを待っている様子であり、礼儀としてやはり一口はつけなければならないだろう。
私は飲んだふりをと思ったが、これをここに残しておいて、また何か悪さをされたらと思うと気が気ではなく、覚悟を決めると、行儀が悪いが一気にそれを飲み干した。
「それでは失礼しますね。チェルシー様、お大事に」
「え? え? あ、」
『待って! ちょっと、えー!』
焦っているチェルシー様に一礼すると、私はアシェル殿下にエスコートされ、部屋を後にする。
『もう! 信じられない! もう! もう!』
私は部屋を出る間際、先ほどの侍女にさりげなく視線を向けた。
侍女は顔を青ざめさせ、小さくこくりとうなずいていたのが見えた。
「ん?……顔が赤くないかい?」
『え? エレノアまで体調が悪くなったのかな?』
廊下を一緒に歩いていると、アシェル殿下にそう言われ、私は呼吸が苦しくなり、脈拍がどんどんと上がっているのを感じていた。
「あ、アシェル殿下……そ、その、体調が悪いようで……」
『え? えぇぇ? エレノア? え? 顔真っ赤で、しかも潤んでるし……え? 呼吸も、上がってる?』
即効性だったらしい媚薬の力に、私は体の力が抜けていくのを感じ、ぐっとアシェル殿下に支えられるだけでぞわぞわとする奇妙な感覚に体を震えさせた。
「アシェル殿下ぁ」
ごくりと、なぜか生唾を飲み込む音が聞こえ、私の意識はふわふわとなっていくのであった。
こう、媚薬ってよくね、小説では出てきますけどね、媚薬って……思わずAma〇onさんで調べてみたらプラセンタとかサプリメントとかが出てきました。(●´ω`●)