四十二話 元に戻ったエレノア
朝目覚めると、窮屈な服に私は驚き、そして自分の体が元の姿に戻っていることに気が付いた。
昨日は余裕のあった服も、今では体のラインがはっきりとわかるほどにぴっちりくっきりとしてしまっていて、なんとも恥ずかしい。
だからこそ急いで侍女を呼び着替えを済ませると、アシェル殿下が朝一番で様子を見に来てくれた。
ぴっちぴちの洋服姿を見られなくてよかったと、内心私は思ったのであった。
「エレノア!」
『よかったぁ。元に戻っている。ふふっ。昨日のエレノアもすごく可愛かったけれど、元に戻れて本当によかった』
内心子どもの姿のままがよかったと思われたらどうしようかと思っていたので、アシェル殿下の心の声に私はほっと胸をなでおろした。
アシェル殿下は私の頭を優しくなでると、朝食を一緒に食べてくれた。
その後は昨日の分の執務もたまっているようで、名残惜しそうに別れたのであった。
『あぁぁぁ。仕事さえなければずっと一緒にいられるのに。でも、ずっと一緒にいるためには国を安定させないといけないし、はぁ、世知辛いよなぁ』
そんなことを考えながら執務へと戻っていくアシェル殿下の背中を見送りながら、私は婚約者がアシェル殿下で本当によかったなと思うのであった。
私も妃教育を受けたのちに、その後昼食を済ませ、休憩時間に、昨日見た中庭へと向かった。
昨日、チェルシー様が何を探していたのかが気になったのである。
たしか、隠しキャラクターで中庭の精霊というものがいたらしいとは思うが、そのことについてあまり記憶にはなかった。
庭は美しく、私はほっと息を吐いた。
「綺麗ね」
噴水の水がキラキラと輝き、庭の花々は気持ちよさそうに風にそよぐ。
ゆっくりと流れていく時間を感じながら、目をつむり風を感じていた時、日が陰ったかと思うと、横にスラリと背の高い銀色の服を着た人がいた。
澄んだ泉と同じ青色の瞳。
長い銀色の髪が風に揺れる。
「え?」
私が驚くと、その人は言った。
「私を探しに来たのだろう?」
その言葉に、精霊かと気づき、思わずまじまじと見つめてしまう。
「えっと、まさか、本当に出てきてくれるなんて思っていなかったので……」
そういうと、精霊はかすかに微笑みを浮かべた。
「私の名前はエル。この庭の精霊だ。エレノア」
『愛しいエレノア』
「エル様ですか? あの、私の名前をご存じだったのですか?」
そう尋ねると、エル様は私の頭を優しくなでると言った。
「あぁ」
『心の清らかな愛しい子よ』
その時であった。庭の奥の方にチェルシー様の姿が見えて、エル様は大きくため息をつくと言った。
「エレノアまたな。あれはどうも気色が悪い」
『あのようにおぞましい存在には近づきたくはない』
そういうとエル様は姿を消し、私の目の前へとチェルシー様が走ってきた。
「はぁ、はぁ、はぁ。あの、ここに、今、誰かいませんでしたか!?」
『今精霊いたわよね! くっそぉ。やっぱり略奪よ! ふふ! 楽しくなってきたわぁぁ!』
テンションの高いその心の声に、略奪されるほど親しくないのだがと、私は何とも言えない気持ちになった。
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