三十九話 小さなエレノア
自分の小さくなった両手を見つめながら、どうしたらいいのだろうかと途方に暮れていた時であった。
部屋がノックされるとアシェル殿下の声が聞こえた。
「エレノア。読書をしていると聞いてね。少しだけ散歩にいかないかい?」
『あー。邪魔じゃないかな? 少し時間が空いたから一緒に過ごせたらなぁなんて思ったけど……』
忙しい合間を縫って会いに来てくれたことをうれしく思いながらも、この現状をどうしようかと、ぶかぶかのドレスを引きずりながらあたふたとしていると、扉が開き、侍女が顔をのぞかせた。
「エレノア様? 殿下がお見えになっておりますが……?」
アシェル殿下の声が聞こえなかったのかと侍女が私の対応を聞こうと思ったのだろう。
顔をのぞかせた侍女と目が合い、私はひきつった笑みを浮かべると、侍女は目を丸くし、部屋へと飛び込んできた。
「エレノア様!? ですか? えっと、え? で、殿下! エレノア様が小さくなっておいでです!」
『え? え? え?』
「え? エレノア。すまないが入るよ?」
『え?』
侍女の焦った声に、アシェル殿下も部屋へと入ると、私の姿を見て慌てて駆け寄ってきた。
「エレノア? 君かい? えっと、一体、どうして……」
『か……可愛い。え? 天使かな』
二人は慌てた様子で私を見つめながらも、私がエレノアだとすぐに分かった様子である。
思わずほっとしていると、侍女の心の声があらぶり始める。
『か、可愛らしいのに、なんていう色香。どうしましょう。今のエレノア様は、少女性愛者が見つけたら……私たちがお守りしなければ!』
え? 怖い。
私が思わず一歩引いていると、アシェル殿下の心の声もあらぶり始めた。
『か、可愛すぎる。え? どうしよう。抱っこしたい。え……僕、どうしよう。え。可愛すぎる。抱っこしたいけど、抱っこしたいけど……抱っこしてもいいかなぁ!?』
アシェル殿下の場合、邪まな感情というよりは、幼子を愛でるという雰囲気であり、私は思わず吹き出しそうになるのをぐっと堪えた。
しかし、アシェルの後ろから姿を出したハリー様の姿に私は思わず身構える。
いったい何と言われるのであろうかと待っていると、聞こえてきたのは予想外の声であった。
『ぼん、きゅ……え……』
ハリー様が心の中でなんと呼んだらいいのか躊躇っている。
一体ハリー様はどんな思考回路になっているのだろうかとかなり不思議だが、その時、アシェル殿下が私の前へと跪いた。
「エレノア。抱き上げてもいいだろうか? 一度医務室に行こう」
『これだ! これなら、合法に抱っこできる!』
私はくすりと笑いながら、両手を広げた。
アシェル殿下にならばいつでも抱っこされてもかまわない。
「はい。申し訳ありません。アシェル殿下」
『かわいぃいぃぃぃーーーーーーー!』
『あいらしいぃいぃぃぃぃ!』
『……小悪魔?』
え?
私はハリー様の声に、小悪魔? どういう意味なのだろうかと困惑するのであった。
合法だっこです。