四話 向けられる視線
エレノアちゃん、結構好きなキャラです。
私とアシェル殿下の婚約が正式に決まるまで、そう時間はかからなかった。
一か月ほどで正式に婚約は教会に受理され、私とアシェル殿下は二週間に一度か二度は顔を合わせる機会が増え、私は王城へと足を運ぶことが増えた。
そうしていくうちに、攻略対象者であるキャラクターたちにも必然的に会うことが増えた。きらきらとしたイケメン達に出会うたびに、この人もそうなのかなぁと曖昧な記憶の中で考えるしかない。
心を奪う気はさらさらない私にとって、その男たちに会うのは苦痛でしかなかった。
「これはこれはエレノア嬢。今日は貴方に出会えたことを神に感謝しなくては」
『今日も良い体してる~』
「よかったらお茶でもいかがですか?」
『眺めているだけでもいいなぁー。あぁ、本当に、最高だよなぁ』
「貴方と一緒に過ごせる殿下がうらやましい」
『横に並んで歩くだけで、かなり価値があるよな。これだけいい女を連れて歩けたら最高だろうな』
アプリゲームだからか、攻略対象者は多いし、何故だかイケメンが王城内で働いている率がかなり高い。ゆえに出会うことが多い。
廊下を歩くたびに何度も何度も足止めを食うものだから、私も次第に辟易し始める。
今日もすでに三人に出会っており、いい加減に早く進みたいと思っていた時であった。
廊下の曲がり角から、こちらへと歩いてくるアシェル殿下の姿が見えて、私の心はそわそわし始める。
「エレノア嬢。お待ちしていました」
『遅いと思ったら……むぅ? 何だ? 何故こんな所に?』
私は美しくスカートを持ちあげ、一礼する。
「アシェル殿下、お待たせしてしまい申し訳ございません」
「いや、いいんだよ」
『?……何だか疲れた顔をしているけれど、大丈夫かな? えっと、先に甘い物を用意させるかな。それにしても、この男は?』
私を今引き留めていたのは、騎士団に所属する騎士だったのだが、殿下が現れたことで慌てた様子で頭を下げた。
「引き留めてしまい申し訳ございませんでした。失礼いたします」
『ついていないな。もっと近くで話をしたかったのに、残念だ。まぁ、話せただけで運がいい。皆に自慢するか』
立ち去る彼の姿にため息をつき、アシェル殿下へと視線を移すと、殿下は冷ややかな視線で騎士の方へと視線を向けていた。
『なんだ? どういうことだ……もしかしてエレノア嬢はいつもこうやって引き留められているってことか? なるほどなぁ。だから僕の所に来るのがいつもぎりぎりになっていたのかぁ。綺麗な人だから……男として気持ちは分からないでもないけど』
アシェル殿下は私の方へと視線を向けると尋ねてきた。
「エレノア嬢。こうしたことはよくあるのですか?」
『大丈夫だったのかなぁ……どうしよう。これで、僕に会いに来るのが嫌だとか、そんなこと思われていたら、僕、泣く自信がある……』
「えっと……その、皆様、心配して下さるようで」
私が何と言っていいのか分からずそう答えた。
「なるほど」
『わぁ。困った顔している。わぁぁぁ。気が回ってない僕が悪かったなぁ』
私はどうしたものかと思っていると、アシェル殿下がにこりと微笑みを浮かべた。
「次回からは、必ず私が馬車まで迎えに行きましょう」
『僕が悪かったなぁ。エレノア嬢が美人なことをちゃんと頭に入れておくんだった。よし! 気合を入れよう。後そうだな……僕の婚約者に不埒にも声をかけるなんて、きっと皆体力が有り余っているんだろうなぁ。うん。後から誰が話しかけて来たかちゃんと、調べなきゃなぁ』
今までも、男性に引き留められることは多かった。
話しかけられた手前、無視するわけにもいかないのだけれど、そうして相手の話を聞くことで、影では男好きとか、また男に媚を売っていると言われる事も多かった。
きっとアシェル殿下も、私の噂くらい耳入れているはずなのだけれど、こうやって私を心配してくれる。
私がたぶらかしただなんて、全く思っていない。
外見で、淫乱だとか、悪女だとか、そうしたことを言われ続けてきた私は、噂を鵜呑みにせず、私を見てくれるアシェル殿下の、その優しさが、素直に嬉しかった。
「ありがとう、ございます」
私がそう言うと、アシェル殿下は手を差し出してエスコートをしてくれる。
「今日は、美味しい菓子を準備しているんですよ?」
『……うーん。もしかしてエレノア嬢はこういうことがよくあるのかなぁ……心配だなぁ』
「ふふ。殿下は本当にお優しいですね?」
アシェル殿下は私の方を見ると、苦笑を浮かべた。
「いえいえ。本来は私が貴方の元に通いたいところなのですが、時間がないため、いつも来てもらって申し訳ない」
『僕がエレノア嬢の屋敷に行ければ、エレノア嬢が大変な思いをすることもないのに、本当に申し訳ない。うん。そうだなぁ。対策を考えよう』
対策とは一体どうすのだろうかと思っていた私だったけれど、次回から、必ず殿下が馬車まで迎えに来てくれるようになった。
そればかりか、迎えに来れなかったり、見送りが出来ない日などは私が通るルートは男子禁制となったようで、私はその事実をしばらくしてから知り、驚くのであった。
ぼん、きゅ、ぼーーーーん。(●´ω`●)と言っていた人がそのうち出てきます。