三十七話 チェルシー
「うっ! み、みふをみふをちょうらい!」
『しっ! 死ぬ!』
チェルシー様がのどを抑えながら声をあげ、侍女が慌てて水をチェルシー様へと差し出す。
それをチェルシー様は一気に飲み干して口の中のマフィンを流し込むと、大きく息をついた。
「おや、チェルシー様。調子が悪そうなので部屋へと戻りましょう」
『ストーン。行くぞ』
言うことを聞かないと三つ目を口の中へと放り込むぞというような勢いのハリー様の声に、チェルシー様はアシェル殿下へとしがみつくと言った。
「嫌です! チェルシーはアシェル様と一緒にいたいです! ねぇ? お願いですぅ~」
『ハリーは全然好感度上がらないし、変なものばっかり口に突っ込んでくるし、ちょっと待ってよ! 私はアシェルにもっとこっちを向いてほしいのよ!』
その言葉に、私は少しばかりもやもやとした気持ちを抱く。
チェルシー様は、一体アシェル殿下のことをどう思っているのであろうか。
ハリー様にも色目を使っているような姿もあり、私は、顔をあげると口を開いた。
「チェルシー様。アシェル殿下は私の婚約者です。あまり、べたべたとはしないでくださいませ」
強い言い方になってしまっただろうかと私はどきどきとしていたのだが、予想外の言葉が聞こえてきた。
『そうよ! エレノア! あんたは悪役令嬢なんだから、もっと邪魔してくれなくっちゃ!』
『え、エレノア? もしかして、やきもち? やきもちかなぁ~? どうしよう。顔がにやけそうだ』
『ぼん、きゅ、ぼーん……やきもちか』
私は思わず顔が真っ赤になっていくのが分かった。
違う。
やきもちじゃないと言い訳をしようと思うが、やきもちじゃないのだろうかと、自分で気づいてしまう。
やきもちである。
顔にじわじわと熱がこもり、私が思わずうつむくと、アシェル殿下は私の横へと移動して、優しく私の手を取った。
「すまないエレノア。チェルシー嬢と私が近すぎたね。今度から気を付ける」
『かーわーいーい! あぁもう! 可愛すぎるでしょう! 僕の婚約者はあれかな? 天使かな? いや、小悪魔かなぁぁぁぁぁぁ!?』
「あ、ごめんなさい。気を付けますぅ……」
『ちょっと! なんでそうなるのよ! でもこれを利用して、これからいじめられ始めたってことにするか?』
響く心の声に、私はアシェル殿下の声は恥ずかしいし、チェルシー様の声は怖いしで、何とも言えない表情を浮かべるしかなかった。
遅くなってしまいすみませんでした!
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