二十五話 地下牢
「実は……あの後、身柄を保護しようとした時に、暴れまわって……」
『えっと、どう伝えたらいいかなぁ』
「え? そうなの……ですか?」
私が思わずそういうと、アシェル殿下は慌てて首を横に振った。
「えっと、一応地下牢とはいっても、衣食住はしっかりとなされたきれいな場所ですから。それに、彼はこちらに敵意を丸出しでして……仕方なく……」
『あの身のこなし方からしてただものではないしなぁ……できればエレノアにはもうあの男にはかかわってほしくないなぁ』
アシェル殿下の気持ちはわかる。
私はどうしたものかと思いながらも、どうにかノアを助け出さなければならないとアシェル殿下に向かっていった。
「あの方は私の恩人です。どうにか、手立てはないのでしょうか」
『う……うーん。いつまでもこのままにはしておくつもりはないけれど、そうだなぁ。エレノアの恩人だしなぁ』
アシェル殿下の心の声に、私は期待を込めて言った。
「お願いです」
「うーん。わかりました。私もエレノアの恩人をいつまでも牢屋に入れておくのは気が引けていたところです」
『エレノアを助けてくれたことだし、それを考慮して、彼のことを受け入れてくれるどこかの貴族にその身柄を預け、保護観察とするのが妥当かなぁ……』
その言葉に私は思わず手を挙げた。
「公爵には私から話をします! うちで身柄を預かるのはどうでしょうか!?」
次の瞬間、アシェル殿下の心の声が部屋中に響き渡った。
『だめだよぉぉぉぉぉぉ! 絶対に危ないでしょう!? いったい何考えているんだよぉ。エレノアは美人なんだよ? 惚れられたらどうするの!? もう! 』
私が呆然としていると、表面上は余裕の笑みを浮かべたアシェル殿下は優しい声で言った。
「しっかりと彼を保護してくれる方を探しますから」
『ダメ! 絶対! エレノアの元に狼なんて、解き放たないよ!』
確かに、考えなしだったと私は反省すると、少し考えてから一つの提案をアシェル殿下に伝える。
「では、アシェル殿下の伯母上にあたる、ミシェリーナ夫人のところはどうでしょうか? たしかミシェリーナ夫人は、他国から嫁いでこられた方でしたよね?」
ミシェリーナ夫人は確か竜の国と仲の良かった隣国出身であったはずである。もしかしたらノアのことも理解してくれるかもしれない。
そう思い口にしたのだが、アシェル殿下の心の声に、私は思わずしまったと思った。
『驚いた。エレノアはもしかして、彼が竜の国の人間だと気づいているのか?』
アシェル殿下は気づいていたのだと、私は思わずなんといえばいいのだろうかと思ていると、アシェル殿下は私の頭を優しくなでてくれた。
「良き案をありがとう。また、決まり次第教えますね」
『さすがはエレノア。ちゃんといろいろと勉強をしているのだなぁ。うん。ありがとう。よーし。彼のことはちゃんと僕がまかされたよー! 安全な場所で過ごせるようにするからね!』
私はほっとし、そして一つお願いをする。
「あの、できれば一度お礼を言わせてもらいたいんです」
アシェル殿下はうなずいた。
「私も同席するが、いいかな?」
「はい。ありがとうございます!」
『エレノアが笑ってくれて、本当によかったぁ』
アシェル殿下の心の声が心地よくて仕方がなかった。
心がずっと聞こえていたら、こう、いたたまれなくなる瞬間がたくさんありそうですよね。