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二十三話 声

 私は皆で慎重に建物の内部を、ゆっくりと進み、そしてついに外へと窓から出ることに成功した。


 外は林のようであり、霧が立ち込めている。


 はっきりいって前も後ろも、道が分からない。


「おい。どうするんだ?」

『っは。どうせ計画何てないんだろうが』


『道は分かるのか?』


『外に出られたぁ!』


『はしりたいなぁ』


 私は四人に笑顔を向けると、ゆっくりと目を閉じて集中する。


 こんな使い方は初めてではあるが、やるしかないと自分を奮い立たせて、一本の糸を見つけるような感覚で意識を収縮させていく。


 私は目を見開いた。


「来てくれた」


 その時、先ほどいた屋敷の方から罵声が聞え、騒ぎがこちらにまで響いて聞こえてきた。


「おい。ばれたみたいだぞ」

『一人で逃げるか?』


 ノアの声に、私は笑みを向けると、林の奥を指差した。


「着いて来て下さい。こっちです」


 後ろから、男達の声が聞える。どたばたとした足音と、馬の声が響いて聞こえてきた。


 四人は私の後ろをついてきながらも、不安げな心の声を響かせる。


「おい。追いつかれる。本当にこっちでいいんだな? かつぐぞ」

『おせぇ』


「え? っきゃっ!?」


 ノアに担がれ、そして次の瞬間後ろから追いついてきた男達の攻撃をノアは避ける。


 リク、カイ、クウの三人もさすがは獣人の子どもである。動きは俊敏で、男達からの攻撃をかわしながら走り続ける。


「くそ! 女だけでも捕まえろ!」

『お頭に殺される!』


 男達は私めがけて走ってくる。その光景を見て、私はノアが自分を捨てるのではないかと言う不安にかられる。


 置いて行かれたくない。


 怖い。


『震えてるじゃねーか。はっ。ついでだ、守ってやる』


 男達が剣を引き抜き襲い掛かってくる。ノアはそれをよけ、足で蹴り、男達を牽制しながら走る。


 その時だった。


「エレノア!」


 声が聞えた。


 私は手を伸ばす。


「アシェル殿下!」


 その瞬間、ノアの心が強張るのを私は感じた。


 記憶の中で、ノアは私達の住まうサラン王国に強い憎しみを抱いていた。全てをサラン王国に奪われたと思っているようであるが、それが真実かは私には情報がまだたりない。


 アシェル殿下の姿が見え、ノアは私を地面に下すと後ろから来た男を殴り倒した。


 私は全力でアシェル殿下の元へと走る。


 アシェル殿下は馬のままこちらに駆けてくると、私を馬の上へと軽々と引き上げ、ぎゅっとその胸に抱きしめた。


「無事でよかった。エレノア。……ハリー。後は任せたぞ」

『エレノア! エレノア! 本当に、無事で、よかったぁぁぁぁぁ』


「はい。皆行くぞ!」

『ぼん、きゅ、ぼん!!!!!』


 アシェル殿下の腕の中が、温かくて、私は涙が溢れた。ハリー様の声さえ、懐かしく感じる。


 震える体をアシェル殿下は優しく抱きしめてくれる。


「アシェル殿下、あの、怪我をしたあの男の方と、獣人の子ども達は保護して下さいますか?」


「ん? あぁ。分かりました。事情は後で聞きますから、今はゆっくりしてください」

『くっそぉ。誰だよあの男。エレノア抱きあげてたし、むぅ。あ、僕エレノアのこと呼び捨てにしちゃった。怒ってないといいなぁ』


 アシェル殿下は騎士にノアと獣人の三人の事を伝えると、四人は騎士達に保護された。


 私はその光景を見つめながら、疲れからか、意識が遠のいて行ったのであった。


 





 

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― 新着の感想 ―
[良い点] ハリー、待っていたよ〜! ぼん、きゅ、ぼん!!!!!
[一言] >ぼん、きゅ、ぼん!!!!! ハリーにとって感嘆符でもあるのか
[良い点] ハリー様……恐ろしい子…… どこかの後書きで、作者様がハリーの事を、好き、もしくはお気に入りみたいに書いてあったと思うのですが、その時は「へぇー」ぐらいでした。 それが今では……あのセ…
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