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二十二話 ノア

 私は三人と協力して近くにあった縄で男を縛り上げ、声を出せないように布で口を撒くと、男から鍵を奪って部屋の扉に鍵をかけて外へと出た。


 そして、脱出ルートを頭の中で想像しながら進んで行く。


 焦って先に進もうとする三人を制して後ろで控えさせ、出口へと一番近い道順を辿りながらも、人と鉢合わせしないように心の声がしない方向へと進んでいたのだが、そこで、一つの部屋から小さな心の声が聞えた。


『憎い……憎い……憎い……いずれ、国を亡ぼしてやる……』


「え……」


 その声に、私の肌は粟立つ。


 頭がずきりと痛むと同時に、男の中の心の声が頭の中を占領するように鳴り響き始めた。


 それは、幸福が打ち砕かれた男の、悲痛なこれまでの生き様の、悲鳴のような心の声だった。


 渦巻く様な記憶の嵐に、私は思わず蹲ると、涙をポタポタと流す。


 それに三人は慌て、私のことを慰めるように背中を撫でる。


 私は、何故彼がここにいるのだろうかと、顔を上げ、そして微かに彼がゲームの登場人物であることを思いだす。


 亡国の竜の王子。ノア。


 彼の記憶を共有する様な心の声によって、私の彼に対する記憶も思い出された。


 悪役令嬢エレノアが、地下で極秘に飼いならしていた竜の王子。


 私は、頭の中で混乱してしまう。


 獣人の子どもに、亡国の竜の王子。


 ゲームの中のキャラクターたちに、何故ここで出会うのか。


 一体何が起こっているのかが分からない。ただ、彼をここに一人残しておけるはずがなかった。


 私は三人に言った。


「もう一人、助けたい人がいるの。いい? それとも、先に逃げる?」


 後は出口に向かう道を進むだけである。彼らを先に逃がした方がいいかもしれないと私がそう提案すると、三人は首を横の振り、一緒に行くと言った。


 知り合ったばかりの私を心配してくれている心の声が聞え、優しいなと私は三人の頭を撫でると、男から奪った鍵の束を使って、ノアの閉じ込められている部屋を開けた。


 拷問されていたのか、体中にけがをしたノアが壁を背に座っていた。


 その腕には腕輪が、首には首輪がはめられている。


 黒い髪と瞳のノアは、こちらを睨みつけてくる。


「何だお前ら」


 ノアの頭の中は、憎しみの言葉ばかりが渦巻いており、心の声はあまり役に立たなさそうであった。


 私はノアから視線を反らさずに言った。


「私達はここから逃げる途中なのですが、貴方も一緒に行きますか?」


 その言葉に、ノアはにやりと笑みを浮かべた。


「ははっ。女と子どもが三匹、ここから逃げ出せると? それに逃げ出せたところで、この首輪を外さなければ俺達に待っているのは死だ。逃げて三日以内にこの首輪を外さなければ、電流が流れ、死ぬ仕掛けだからな」


 私はそんな仕掛けがあるのかと驚きながらも、それはそこまで問題ではないなと思い至る。


 公爵家の力をもってすれば、外すことは可能だろう。


 私はノアに向かって手を伸ばす。


「必ず外す手立ては見つけます。だから一緒に行きましょう」


 ノアは苦笑を浮かべると、私の手を取ることなく、一人でひょいと立ち上がった。


「いいだろう。付き合ってやるよ」

『失敗しても、捕まって拷問されるくらいだろう。なら試してもいいか』


 呟かれた言葉の殺伐とした雰囲気に、私は、アシェル殿下のふわふわとした優しい心の声が恋しくてたまらなかった。







アシェル君がいなきゃ、エレノアの心に平穏が帰ってきません!エレノアファイト!


読んでくださる皆さまに感謝です!

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