二十話 獣人の子ども達
体の痛みと、ざわつく様な心の声で、私は目を開いた。
『あ、起きたぞ』
『わぁ~。綺麗な人間だなぁ』
『かわいちょう……』
奴隷と言う言葉に、私はがばりと体を起き上がらせて、そして頭の痛みを感じて手で押さえた。
『馬鹿だな。いきなり飛び起きたらそりゃあ、痛いだろうよ……』
『どんな声なのかなぁ』
『かわいちょう~』
そこは小さな部屋の中であり、三つの檻が並んでいる。そしてその中には、赤色の瞳の、耳と尻尾の生えた獣人の子どもが入れられていた。
私は目を丸くして、じっと檻の中の子ども達を見つめる。
見覚えがあった。
悪役令嬢エレノアが侍らせていた三人の幼い従者と同じ外見であり、悪役令嬢のエレノアは彼らに首輪をはめて楽しそうにしていた。
私は緊張しながら、辺りをきょろきょろと見回し、扉の方へと行くと、開かないか、ドアノブをガチャガチャと鳴らす。
「開かないわよね……」
私はため息をつくと、檻の中の三人へと視線を向ける。
『逃げるつもりなのか?』
『無理だよぉ~』
『かわいちょうな人らなぁ』
何故この三人と同じ部屋に入れられたのだろうかと思っていると、部屋の外から男達の声が聞えてきた。
頭の中の声は私のことをいやらしい目で見て、興奮しているようだったので聞こえないふりを決め込む。
「お嬢の命令だが、大丈夫なのか?」
「綺麗な女なのに、俺達が相手が出来ないなんてなぁ」
一体何だろうかと思っていると、続いた言葉に、私はびくりと肩を震わせる。
「獣人の鍵は開けてある。そのままにしていたら獣人に殺されるんじゃないか?」
「凶暴だからなぁ。綺麗な女をそのまま殺すのはもったいないが、命令だから仕方がねーよ」
「獣人の遊び道具ってことか?」
「そういうことだろう? 獣人も血に飢えている頃だろうしな」
私は思わずばっと獣人の方を振り返り、身構える。
そんな狂暴なのだろうかと思って、襲われないかどうか見定めていると、心の声が聞えはじめる。
『血に飢えるって……俺達は獣じゃねぇ』
『ふふっ。襲わないよぉ。僕達、野蛮な人間じゃないもん』
『ばからなぁ』
私はほっと胸をなでおろすと、獣人の檻の方へと歩み寄り、檻の中を覗き込んだ。
すると、三人はそれぞれ首輪をはめられており、私は眉間にしわを寄せてしまう。
「あの……大丈夫? けがはない?」
思わずそう尋ねると、三人は驚いたように小首を傾げ、そして一番年長であろう少年が口を開いた。
「俺達にかかわるな」
『可愛そうだけど、俺達には助けてあげることは出来ない。だから、関わらない方がいい』
絶対に自分達は救われない、そんな瞳の色を三人はしており、私は胸が痛くなった。
けれど、ゆっくりはしていられない。
男達の考えがいつかわるかは分からないし、自分達がいつどうなるかなど分からない。一刻でも早く逃げなくてはいけない。
私は意を決すると言った。
「一緒に逃げましょう」
獣人の子ども達は、目を見開くと、私の言葉に固まった。
獣人の子どもたち。きっと可愛いでしょうねぇ~。
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