二話 殿下は可愛すぎませんか?
殿下の可愛さよ、つたわれぇ~
同じ十六歳ではあるが、その外見は第一王子として相応しく、凛々しく、溌剌としている。
貴族の令嬢達はもちろんその見た目にうっとりとしながら、頬を赤色に染めていく。
会場内を挨拶を交わしながら歩いていくアシェル殿下の姿を、私も目で追っていく。
「素敵な方ね。きっとファーストダンス、誘われるでしょうから、楽しんでね?」
『まぁ、素敵な殿下。私が若かったら、虜にしてみせたのに』
「エレノア。しっかりな」
『まぁ、殿下も年頃だからな。お前の体は大層気に入るだろうなぁ』
両親の言葉に、私は微笑を張り付けると。アシェル殿下がどんな声を心の中で囁こうとも、しっかりとしなければと思う。
そして、アシェル殿下が私の前の前へと進んでくると、にっこりと優しげな微笑を浮かべて言った。
「エレノア・ローンチェスト嬢。よろしければ、最初のダンスを踊る栄誉を、私にいただけないでしょうか?」
『わぁぁぁ。噛まずにいえたぁぁ。良かった。わぁ。ドキドキしたなぁ』
一瞬、噴き出しそうになるのを私はぐっと堪える。
見た目はキラキラとした王子様である。
微笑む姿は、どのご令嬢も頬を赤く染める。
「よろこんで」
どうにか私がそう言って手を取る。
「では、行きましょう」
『わぁぁぁ。緊張するなぁ。それにしても、エレノア嬢は可愛いなぁ。うん。わぁぁぁ。緊張する。手、ほっそ。これは折れるよ?折れちゃうよ?えーー。女の子ってもうちょっと太った方がいいと思う』
私は奥歯をぐっと噛む。
手が震えそうになるのを堪えて、ダンスホールへとアシェル殿下と進んで行くと、向かい合わせになり、そして手を添え、そしてアシェル殿下の手が腰へと触れる。
「よろしくお願いしますね」
『腰ほそぉぉぉぉぉ。どうしよう。折れちゃう。折れちゃうよ』
折れません。内心、奥歯をぐっと噛んで堪えながら私は音楽に集中する。
はっきり言えば、ダンスは完璧である。
アシェル殿下は何一つ問題なくダンスのステップを踏み、しっかりと私をリードしてくれる。
見た目には微笑を携え、完璧なる王子様である。しかし、その心は嵐のように、雄叫びを上げていた。
『わぁぁぁ。ダンス上手いなぁ。僕、大丈夫かな? しっかりリード出来てる? わぁぁ。下手くそとか思われてたらどうしようかなぁ。えぇぇ? 大丈夫? え? 僕、大丈夫?』
私は奥歯がいつか折れるのではないかと言うくらいに、ぐっと力を入れる。
可愛い。
うん。可愛い!
アシェル王子殿下、本当に可愛い!
私はこの世界に生まれて初めて、男性を心から可愛いと思った。
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