十八話 城下町デート
暗殺事件の一件にて、過激派は沈静化され、関わった者達は処罰されることに決まったとの知らせに私はほっとしたのであった。
「よかった」
「お嬢様、良かったではありません! これから良いことがあるのですから!」
『さぁぁ! うちのお嬢様を磨き上げるわよぉ! はぁ、幸せ!』
鏡の前に私は座っており、侍女から朝一番から体を磨き上げられ、そしてこれから化粧と着替えが待っている。
今日はアシェル殿下との城下町デートの予定なのである。
楽しみではある。そう心が浮だつほどに楽しみではあるのだが、それ以上に微かに不安があった。
いつか、アシェル殿下の前にヒロインが出てきたらどうしたらいいのだろうかと、私は不安になる。
そう思っている間に、侍女達は手際よく仕上げていく。
髪の毛は編みこみ、可愛らしく二つのお下げに仕上げる。そして色とりどりの花の飾りをあしらう。
洋服は白いフリルのついたシャツに、ロングの薄紅色のスカートを着るが、スカートのにさりげなく刺繍された蝶の模様は美しく、一流の職人の技が光る。
鏡に映る姿は明らかに町娘風の衣装を着た貴族の令嬢である。
「本当に、これでいいのかしら?」
思わず小首をかしげる。
『はぁぁぁぁ、可愛いの語源がここにいる』
『いい』
『うちのお嬢様は世界一だわ!』
心の中で侍女達は歓声を上げ、侍女達が楽しそうならまあいいかとほほ笑むのであった。
アシェル殿下は時間通りに迎えに来てくれたのだが、私はその姿を見て、息を飲んだ。
何と言うか、おそらくこれは、おそろいコーデというものではないであろうか。
服の色合いはあわせられており、私は少し恥ずかしくって顔を伏せる。
「エレノア嬢。今日はよろしくお願いします」
『ふわぁぁぁ! 可愛い! えー! 何それ! これは反則だよー。はい。エレノア嬢の勝ち! もう誰もエレノア嬢には敵わないよね! ふふ。可愛いー!』
アシェル殿下の心の声はウキウキと跳ね、私はそれがまた恥ずかしくて顔が熱くなる。
「アシェル殿下も素敵です」
「ありがとう。では行きましょう」
『デートか。うん、気合を入れて行こう。あぁぁ、予習してきたから、大丈夫だよね? うん。大丈夫。きっと。よし! 頑張るぞー!』
自分と出かけることを楽しみにしていてくれているアシェル殿下に、私は嬉しく思う。
こうやって誰かと出かけるのが楽しみというのは、初めての事である。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
『頑張るぞ! エイエイ、おー!』
私は頷きながら、ふと、きょろきょろと見回す。
いつもの声が聞えないと、それはそれで、何となくそわそわとする。
「殿下、あの、ハリー様は?」
「ん? 今日は用事があるそうだ」
『僕の分の仕事まで、頑張ってくれよ。ハリー』
なるほど、と私は思いながら、城で仕事を頑張ってくれているであろうハリー様に感謝した。
たくさんの方に読んでもらえて嬉しいです。ありがとうございます(*´▽`*)
ハリー、ごめんな。今日は出番なかったな。