十七話 思い通りにならぬもの
ジークフリートは、庭へと向かうアシェルとエレノアの背中を見送りながら、別室へと一度下がる。
そして、自らの影を呼ぶと、言った。
「エレノア嬢について調べろ」
「はっ。殿下の飲み物に毒をもっていった男についてはどうされますか?」
「あぁ……それはアシェル殿が対処するだろう。その様子次第にしよう」
「はっ……あの」
「なんだ」
「エレノア嬢は、毒に気付かれたのでしょうか」
その言葉に、ジークフリートは顎に手を当てて考えると、先ほどの彼女の笑顔を頭に描き、顔が熱くなるを感じていた。
「殿下?」
「い、いや。なんでもない」
その様子に影ことアレスは目を細めるとエレノアのことを思う。
美しい女性であることに間違いはない。ただ、美しい女性と言うものは貴族であれば結構な数いるものである。だからこそ、エレノアもその他大勢の美女の一人だと思っていた。
しかし。
主の顔を赤らめ、動揺する姿にアレスは考える。
(これは……国王陛下に報告すべきか)
第四王子という立場のジークフリートは、外交を今後担っていく立場となる。故にその結婚相手というものも重要になってくるのだが、ジークフリートはこれまで女性に好意を示したことがなかった。
「エレノア嬢がどうかされましたか」
「……いや」
ジークフリートはそう濁すと、小さく息をつく。
思い悩んだところで、彼女はすでにアシェルの婚約者である。どうこうできるものではないと頭の中でジークフリートは自分に言い聞かせる。
その様子を見ていたアレスは、静かに言った。
「エレノア嬢であれば、国交的にもよきお相手ですが」
「なっ!? アレス。彼女はアシェル殿の婚約者だ」
「えぇ確かに、今は。ですがシナリオさえ作ってしまえば、不可能ではありません」
その言葉に、ジークフリートは眉間にしわを寄せる。
可能性がゼロなわけではない。
道は難しいかもしれないが、そう思うものの、頭の中で隣国との関係性を思い描いた後に首を横に振る。
「いや、合理的ではない。お前も、忘れろ。いいな」
「っは……」
「いけ」
アレスは消え、部屋に残ったジークフリートは大きくため息をつくとソファへと腰掛けた。
そして机の上にあったワインを一口飲むと、また大きくため息をついた。
「合理的ではない……のに、なんだこの感情は」
コツリと、机の上へとワインを置く。
両手で自分の顔を覆いながら、頭の中で何度も繰り返し流れるエレノアの笑顔を思いだし、ジークフリートは思い通りにならない心に、ため息をつくしかなかった。
忘れるべきだ。
ジークフリートは、何度もそう心に言い聞かせた。
応援してくれる人がいるって、幸せなことですよね。ありがたやぁ(*'ω'*)