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累計20万部突破 完結済【書籍化・コミカライズ】心の声が聞こえる悪役令嬢は、今日も子犬殿下に翻弄される   作者: かのん
第五章

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22話

 結局、ユグドラシル様は二人を未来へと帰す方法を思い出せないようであった。


 私達はそれに頭を抱えるけれど、帰し方は絶対にあると言う言葉にアニスとルイスはひとまずほっとした様子であった。


 その後、私達は視察の旅が残っていることもありノア様達にはしばらく妖精の庭に姿を隠してもらうことになった。


 エル様もそちらに一緒に行ってくださると言う事だったので、私達は子ども達と共に旅を続けることになった。


「エレノア、大丈夫?」


 次の街へと移動が始まり、馬車の中でため息をこぼす私にアシェル殿下は心配そうにそう尋ねる。


「はい。でも……少し心配ですね」


 そう告げるとアニスが口を開いた。


「大丈夫よ。ユグドラシル様が帰し方はあるって言っていたし」


「そうそう。だから僕達せっかくだからこっちでの旅を楽しもうと思うんだ」


 ユグドラシル様が見つかったことと、帰り方があるということが二人を安心させたのだろう。


 二人は、馬車の中でお菓子をもぐもぐと食べながらしゃべっている。


 その様子に、私はハンカチで二人の口元をぬぐい言った。


「そうですね。ではせっかくなので、お二人のマナーを学びなおしましょう」


「うん。それがいいね。子どもで外ではしっかりしていると言うけれど、僕達の前だからなのか、少しばかり気になる。勉強もせっかくだ。見直していこう」

『エレノア、馬車の中の移動はそれに時間を当てようか』


「はい。アシェル殿下」


 私達が気合を入れているのを見て、二人は引き攣った笑みを浮かべる。


「えぇ? いや、そんな……せっかくだから、バケーションだって思おうよ」


「そ、そうよ。ねぇ、エレノア様。アシェル殿下……あ、聞いていないわ」


 私とアシェル殿下はどこから勉強とマナーを見直していくべきかをその後話していたのだけれど、その横で二人は青い顔をしていた。


「あの、本当にちゃんと出来るよ?」


「えぇ。私達優秀だって言われているのよ?」


 二人の言葉に私とアシェル殿下はすっと目を細める。


「でしたら、お二人共、私達からの問題にお答えしていただけるかしら」


「うん。しっかりと答えられたら信じるよ」


 自分がまさか子どもにこんなにも甘かったとは。


 未来の自分が親として本当に大丈夫なのだろうかという心配があり私達は気合を入れて二人に問題を出し始めたのであった。


 すると、恐ろしいことが起こり始める。


「サラン王国神話第三章、王国建国の際に要した祭壇は太陽方式の物でしょうか」


「いいえ。太陽方式は建国百年以降から」


「その前までは精霊方式がとられていたよ」


 私の問いかけに的確に答える二人、アシェル殿下も問題を出す。


「魔術具が昨今発展してきているが、魔術具を最初に作った物の名前は?」


「サルーン・トイ」


「おもちゃ職人だった彼が魔法石を使ったのが始まりと言われている」


 次々に出す私達の問題を、二人は余裕な様子で答えていくものだから、私もアシェル殿下も次第に楽し

くなり始める。


 それと同時に、確かにしっかりと知識は身に着けているのだなと感じた。


「すごいです」


「うん。ちょっと驚いちゃったね」


 二人は鼻高々な様子でうなずくと腕を組んでいった。


「言ったでしょう?」


「僕達、やればできるんだよ」


 確かにその通りなのだなと思いつつ、私はうなずき言った。


「本当ですね。ではやればできるのだということで、ここからの旅ではしっかりと外に出た時にもちゃん

としましょう」


「その通りだね。君達、猪突猛進に飛び込んでいくところがあるようだから、そうしたところもしっかりと自制出来るのだということを示してほしい」


 二人が姿勢を正す。


「そ、そんな……今くらい」


「別にいつもっていうわけじゃ」


 二人に私達は笑顔で答えた。


「何かあってからは遅いので」


「しっかりと対応できるように気を引き締めて行こう」


 私達からの笑顔の圧に、二人は顔をひきつらせながらうなずいたのであった。


 それから旅は順調に進んでいったのだけれど、様々な町を回っていく中で私達は二人の立ち振る舞いなどについても意識して見ていく。


 未来では親なのだろうけれど、今の私達はまだ親ではない。


 だからこそ、今の私達にしか伝えられないようなことがあるのかもしれない。


 二人は基本的には人の前ではしっかりと猫を被ることができる。だけれど子どもだから不意に興味のあることや気になったことに意識が向きすぎる傾向があった。


 普通の子どもならばそれでいい。


 けれど、王族の子どもというのはそれが命取りになると言うこともあるのだ。


 平和なサラン王国。けれど、だからといって木をずっと抜いていてもいい場所というわけではない。


 私達は子ども達と一緒にそれを町を回りながら、出来るだけ経験させてあげたいと思った。


 そしてサラン王国内を回った私達は王城へと無事に帰って来たのだけれど、いつも以上に疲労感があった。


 私とアシェル殿下は子ども達をハリー様に任せて、久しぶりに二人きりでのんびりとした時間を過ごす。


「なんだか……どっと疲れたねぇ」


 庭に用意された席にてそう呟くアシェル殿下。


 私も同じようにほっと息をつきながらうなずく。


「そう……ですね。なんだか、疲労感がすごいです」


「僕もだよぉ」


 蝶々が庭の花々を行きかう中、ぼんやりとそれを眺めながら私達は紅茶を飲む。


 時間の流れが久しぶりにゆっくりと流れていく。


「エレノア、今回の視察はどうだった?」


「そうですね……色々とまだまだいきわたっていない点が気になりました。また、整備が古くなっているところがあり、そうしたところにも手を回したいですね」


「あー、分かる。どうにか予算を回したいよね。後で、気になったところを出し合ってもいい?」


「もちろんです。国王陛下への報告もせねばなりませんね」


「そうだね。父上ってば……中々に意地が悪いから全然助けてくれないんだよなぁ」


「ふふふ。それはアシェル殿下に期待をしているということではありませんか?」


「はは。そうだといいんだけどね」


 二人でこうして静かに話が出来ると言うのも久しぶりであった。


「いつか」


「はい」


「いつか、こうやって二人きりで話していた時間に子ども達が入って、そして家族での時間が増えていくことは、すごく素敵なことだね」

『ふふふ。想像するだけで楽しいや』


 その言葉に、私もうなずきかえす。


「はい。そうですね」


 家族という形が、私もアシェル殿下も不安定だ。


 公爵令嬢として生まれた私も、生まれながらにして王族として育ったアシェル殿下も、普通の親子というものが分からない。


 だけれど、あの二人を見ていると、勇気が湧く。


 きっと大変なことはたくさんあるだろうけれど、きっと明るい未来がある。


 不安だったことが消え、私の中には明るい未来が見え始めていた。


「だからこそ、頑張らなきゃいけないね! ふぅ! 僕、頑張るぞぉ!」


「はい! 私も頑張りますっ!」


 気合を入れるアシェル殿下。私も同じように、頑張るぞとポーズをして、お互いに笑った。


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