21話
その後私達も追いかけるように扉の方に入ると、そこは昨日の竜の板場所だった。ただ、不思議なことに昨日争った跡などは消え、そこは美しい草原となっちる。
泉の横にノア様達はおり、竜は楽しそうに水浴びをしていた。
「エレノアちゃん!」
カルちゃんが私の方へと駆け寄ってくると、抱き着きそれから肩の上へと乗る。それを見たエル様もこちらへと来ると言った。
「竜の怪我はもう治したぞ。もう大丈夫だろう」
『さすがは竜だ。回復力が高い』
その言葉に良かったとうなずいているとノア様の声が聞こえた。
「エレノア様! アシェル殿下!」
ノア様もこちらへとやってくる。私はその明るい表情にほっと胸を撫で下ろした。
竜も泉から上がると、体を震わせて水を飛ばした。それからどすどすと音を立ててこちらにやってくる。
「よかった。怪我の調子もよさそうですね」
そう声をかけるとノア様はうなずき、横に歩いてきた竜が口を開いた。
「ありがとう。助かったわ。私の名前はセリル。セリルって呼んで。よろしくね」
『心からの感謝を。王子を救ってくれたことも。そして今回私を助けてくれたことも』
頭を下げて私とアシェル殿下の前へと持ってくるセリル。
巨大な体からは想像もできなかった可愛らしい声にアシェル殿下は目を丸くしており、私も昨日のようなうめき声ではない溌溂としたその声に多少驚いた。
私とアシェル殿下は顔を見合わせ、それからアシェル殿下が口を開く。
「これまで、大変だったでしょう? とにかく今は元気になることを最優先に。ただ、一つ聞いておきたいことがあるのです」
丁寧な口調に、セリルとノア様は少しばかり姿勢を正す。
「今後はどうしますか? サラン王国で生きていくならば、安全に暮らせる場所を提供しましょう」
その言葉に、ノア様はセリルを見て言った。
「私はサラン王国に忠誠を誓い生きていくつもりだ。セリルはどうする?」
セリルはその言葉に私達をじっと見つめて言った。
「私も一緒に暮らしていいの? それなら、私はノア様の傍に居たいわ」
『ノア様がサラン王国に忠誠を誓うならば、私もそれに従うだけだわ』
私もアシェル殿下もその言葉にそれならば今後は竜がのびのび生活できる場所を急ぎ用意しなければなと考える。
「良かった。サラン王国で保護したとして、牽制の為、他の国々にも伝えておきますね。それで命を狙われることも少なくなるでしょう」
サラン王国の保護下の竜であることを知らしめれば、今回のような事件もなくなるだろう。
後ろ盾というものは、希少な存在であればあるほどに重要になってくる。
「ありがとう。ノア様の主であれば私の主でもあるわ。これから貴方に忠誠を誓い、サラン王国に帰属させてもらします」
そう言うと、セリルは頭を下げてアシェル殿下の前へと差し出す。
ノア様はその姿に微笑んだ。
「額に手を当ててもらえますか? 竜の主従関係の契約のようなものです」
『竜が人の王に頭を下げるか……ふっ。アシェル殿下にならば、私もを命を捧げよう』
その言葉に、あぁ、ノア様とアシェル殿下との信頼はそれほどまでに強くなっていたのかと嬉しく思う。
アシェル殿下はセリルの額に手を当てる。すると温かな光が放たれた。
竜とアシェル殿下の周りが光で包まれそして光はパチパチと輝きながら空へと昇っていく。
「わぁ。なんだか不思議な感じ」
アシェル殿下がそう呟くと、セリルが笑う。
「これからよろしくお願いいたします」
「うん。よろしくお願いします」
竜のことが一段落したところでユグドラシル様は私の肩から飛び上がると言った。
「じゃあ、とりあえずこれまでのこと、説明するわね」
事細かに説明してくれるのかと思いきや、ユグドラシル様は楽しそうな様子で口を開く。
「竜を見つけたけど、それを無事に見つけて助けるためには、この子達を未来から呼ぶしかなかったから、時の花を使って呼んで、ここまで導いた。そしてその間に、私は必要な毒を封じ込める箱を作って、急いで飛んできた。めでたしめでたし!」
『ふぅ。説明おしまい!』
くるりんと空を飛んだユグドラシル様はセリルの体に乗ると楽しそうに笑った。
「いや、説明不足だよ!」
「ユグドラシル様! 全然それじゃわかんないよ!」
アニスとルイスが叫び、アシェル殿下も額に頭を当てて悩ましそうにため息をつく。
すると、ユグドラシル様は自分の髪の毛を指でくるくるといじりながら、肩をすくめる。
「だって、面倒くさいんだもん」
『本当に大変だったんだから。時間超えるのも楽じゃないし……でも、ずっとエレノアが気にしていたことだから、頑張ったんだもん。はぁ。ノアも笑ってよかったわ。ふん。貴方のためじゃないわよ~だ。ふふふん』
その心の声に、私は小さく微笑む。
想像よりも遥かに、ユグドラシル様は大変なことがあったはずだ。
だけれどそれを言葉にしない。
きっとそれはユグドラシル様なりの優しさなのだろうなと思い、私はユグドラシル様に向かって手を伸ばした。
「ユグドラシル様、ありがとうございます」
すると、ユグドラシル様は私の胸の中に飛び込んできて、笑い声をあげた。
「いいのよ。喜んでくれたなら」
『ふふふん。貴方が笑ってくれると、とても嬉しいの』
優しい妖精だ。そう思ったのだけれど、難点が一つ。
「あ、でもね、大変なことが一つあるわ」
「え?」
皆に嫌な予感が走り、そしてそれは当たることになる。
ユグドラシル様は困ったように頭を掻く。
「この子達の戻し方、どうしたのか、忘れちゃったのよね」
『絶対にあるはずなんだけど~』
一難去ってまた一難。
私達は天を仰いだのであった。






