十六話 熱
「アシェル殿下。迎えに来て下さったのですか?」
私は思わず嬉しくて、顔が緩んでしまう。
その瞬間、周りの声が歓喜のような悲鳴で溢れ、私は驚いた。
『わらったぁぁぁ』
『可愛い! 可愛い! 可愛い!』
『なんだ!? 女神か!?』
『はぅぅぅぅぅ』
『ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
一体何だろうかと思っていると、ジークフリート様の声は少し違った。
「アシェル殿。今、エレノア嬢にダンスを申し込んだところです。よろしければ、一曲お願いをしたいのですが」
『なんだ、この感情……。くそ。なんだよ。さっきの笑顔』
「エレノア嬢は少し疲れているみたいで、またの機会にお願いします」
『だめだめ! エレノア嬢が減る!』
アシェル殿下とジークフリート様は笑顔なのに、にらみ合っているように、どちらも退かない。
私はどうしたものかと思っていると、ハリー様と視線が合う。
ハリー様はちらりと、外へと向かうように私に視線で伝えてくる。
『ぼん、きゅ、ぼん』
私はコクリとうなずくと、アシェル殿下の手をとって言った。
「すみません。少し人に酔ってしまったようで、庭でも散歩にいきませんか?」
「ええ。もちろん。では、ジークフリート殿。これで失礼しますね」
『あぁ良かった。だって、エレノア嬢がもしもさ、もしも……ダンス踊ってジークフリート殿と引っ付くとか、本当に嫌だし……』
「では、またの機会に」
『くそっ……エレノア嬢……』
切なげに名前を呼ばれ、何がどうなっているのだろうかと私は困惑しながらも、アシェルと共にその場を後にする。
会場の外へと出ると、空気は少しだけ冷ややかで、鼻から空気を吸い込むと、体の火照りが少し和らいだ。
舞踏会の音楽の音や人々のざわめき、そして心の声も遠ざかり、エレノアはほっと息を吐く。
微かに、風に乗ってバラの香りがした。
「エレノア嬢」
「はい」
アシェル殿下を見上げると、アシェル殿下は私と向き合い、そっと指で私の頬を撫でた。
『何で……さっき、ジークフリート殿に笑顔を向けたんだろう』
指は冷たくて、私はどきどきとしながら固まっていると、私の髪に指をからめそれから一房にアシェル殿下はキスをした。
「エレノア嬢……貴方は美しいのですから、あまり笑顔を振りまいてはいけませんよ。妙な輩を引き寄せるといけない」
『ジークフリート殿……とかさぁ。あーもう。僕ってば心が狭いー! くっ……もう少し余裕が欲しいよ。大人の余裕が欲しいよ! どうやったら身につくんだよ! もう』
「は……はい」
顔に熱がこもる。
先程までは冷たいと感じていた風が、心地良く感じた。
豆腐メンタルの作者に優しい皆様に感謝です。ありがたやぁぁぁぁ(●´ω`●)