15話
アニスとルイスと共に、私は馬車へと乗り込む。
アシェル殿下は馬に乗り、全体を指揮しながら進んでいくことになった。
カルちゃんは現在アシェル殿下の肩の上にいる。馬車の中にいると不安になるらしく、外にいたいようだ。
馬車が動き始める中で、私は二人に向かって口を開く。
「二人とも、不安でしょうけれど、今はユグドラシル様とノア様の捜索に集中しましょう。アシェル殿下も、ハリー様も、騎士達もついています」
するとアニスは唇をぐっと噤んでいたのを、ゆっくりと開いた。
「さっきのは……八つ当たりだったわ……ごめんなさい」
それにルイスも同じように口にした。
「ごめんなさい」
二人の謝罪に私は首を横に振る。
「いいえ。私もちゃんと説明していなかったから悪かったのですわ。ですから、二人に見せるために移動をしたのです」
アニスは私のことをじっと見つめる。
「あんな風に……お母様が心の声を聞けるなんて……初めて知ったわ」
「僕も……そんなのやろうともしたことがないよ」
二人の言葉に、私はうなずきながら言った。
「さっきも少し言ったけれど、それはきっと未来が平和だから。だから、私もきっと貴方達が心も体も成長するまではと、そうした力を使いこなせるようにとは思わなかったのだと思うわ。今の私自身も、出来るならば貴方達にはこんな能力なんて使わずに平和に過ごしてほしいもの」
二人の頭を私はそっと優しく撫でる。
「でもね……王族として生まれた以上、国の為にならば自分の能力は最大限に使えるように今後はなった方がいいわ。情報というものは、武器になるから」
「「武器?」」
首を傾げる二人。
今はまだピンとこないとは思う。けれど情報を制した者は強い。
私はノア様やアシェル殿下のように強いわけではない。だからこそ、この能力を持っていてよかったと最近では思うようになった。
大変なことも多い。最初は嫌で嫌でしょうがなかった能力。
だけれどそれで今では大切な人を守ることができる。
「いずれ、分かる時が来ると思います。……でも、本当は、私、二人には引き継いでほしくはなかったんです」
苦笑を浮かべ、それから、私は声を落とし、顔が、笑えなくなる。
「エレノア様?」
「どうしたんです?」
こちらを伺う二人に、私は、唇を噛む。
ごめんなさい。
私がこんな能力を持って生まれてしまったから、貴方達にも苦しい思いをさせてしまった。
でもその言葉は口には出来ない。
言葉にしてしまえば、きっと優しいこの子達は許さないといけなくなるから。
私は無理やり顔に笑顔を張り付けた。
「何でもありません。ごめんなさいね。さて、じゃあ私が聞こえた心の声について話をしますね。これからどう動いていくかについても! 頑張って、ノア様とユグドラシル様の元へ行きましょう」
そう伝えると二人はうなずく。
とにかく今は二人のことを最優先にして考えなければいけない。
私は出来る限り正確に二人に状況について事細かく伝えていった。
二人にとってはユグドラシル様に会えるかどうかが、元の時間へ戻れる道なのだ。
自分の知りえる情報を伝えていったところ、二人はその情報の多さにしばらくするとソファへと項垂れた。
「ふわあぁ……勉強している気分」
「頭がパンクしそう」
大丈夫だろうかと思いながら、私は尋ねた。
「大丈夫ですか?」
すると二人は姿勢を正してうなずく。
「大丈夫。エレノア様に色々と教えてもらえてうれしいわ。だって、お母様もお父様も私達を子ども扱いして全然教えてくれないことばかりなのだもの」
「うん。それはあるね。僕達だっていつまでも子どもじゃないのにねー?」
そう言う二人の姿は子どもらしくて、私はあぁ、なるほどなとなんとなく察した。
私もアシェル殿下も、幼い頃に子どもらしくいられなかった。
だからきっと、自分の子どもにはそんな思いしてほしくなかったのだろう。
恐らくだけれど、私の感覚で言えば十歳ごろから本格的に教育を始める手はずなのではないだろうか。私ならばそうするだろうなと、そう思った。
ただ、今の所確証はないし、それを確かめる方法もない。
それから馬車は目的地の少し手前で止まる。
ここからは馬車では進めないほど道が狭いので、馬へと乗り変える。ある程度の斜面でも進めるように鍛え上げられた馬だ。
「ここからは馬よ。二人とも馬は大丈夫かしら?」
尋ねると、二人はもちろんとうなずいた。
ルイスはともかくアニスも乗れるのだなと内心思っていると、アニスはにっと笑って言った。
「お母様と、一緒に馬に乗るの練習したのよ」
「え?」
「私が馬に乗りたいって言ったら、じゃあお母様も乗れるようになろうかしらって。ふふふ。未来では一緒に遠乗りだって行くんだから」
私が馬に?
アニスと一緒に練習をして?
驚いているとルイスは言葉を続ける。
「二人共僕より馬に乗るの上手だよ。僕は、もしもの時にはお父様に乗せてもらうから大丈夫って思ってたらノアに怒られて、練習頑張ったんだ。大変だったなぁ……」
いつか、自分がアニスと共に練習をして馬に乗れる日がくるようになる。
それを思うと、素敵だなと思った。






