14話
翌朝、私は侍女に身動きのしやすい恰好への着替えを手伝ってもらう。
支度が終わった後に軽食を済ませ、私は子ども達の元へと向かう。
二人もすでに着替えは終わり、朝食を食べ終えたところであった。
アニスとルイスの二人にも新しい洋服が調達されており、怪我をしないようにしっかりとした服装へと着替えてもらった。
アニスとルイスについては、もし危険や子どもは難しいと判断した場合はハリー様が一緒に離脱してくれる手はずとなっている。
「おか……エレノア様。おはよう。あの、一体どうしたの?」
「皆慌ただしいけれど、何かあったの?」
今、アシェル殿下とハリー様は今後の日程の最終確認をしている頃だろう。
私は、昨日あったことを二人に話をしていったのだけれど、それを聞きながら二人の顔色は次第に悪くなっていく。
ただでさえ、自分達がおかしなことに巻き込まれて大変なのに、こちらでも大変なことが続いているから、不安にもなるだろう。
そんな二人へ、私は笑顔で伝える。
「大丈夫よ。大丈夫」
すると、アニスは私のことを見つめながら呟いた。
「……何が、大丈夫なの?」
そんなアニスを止めようと、ルイスが服を引っ張る。
だけれどそんなルイスの手を振り払いアニスは少し声を荒げた。
「ユグドラシル様もいない。ノア様も何者かに攫われる! お母様ってそんなに楽天家だったの?」
「ちょっと……アニス、やめなよ」
ルイスはそう口には出しながらも、きっとアニスと同じように思っているのかもしれない。
顔を俯かせていて、どこか歯切れが悪い。
その姿を私は見つめ、姿勢を正す。
そして、笑みを消すとゆっくりと口を開いた。
「お二人とも、ついていらっしゃい」
「な、なに? どこへ行くのよ」
「……エレノア様、あの、えっと」
二人は自分達がいかに情報を把握していないのか、まずそこに気付いていない。
だからこそ、私は部屋を出て歩き始める。
最初はついてくるか迷っていた二人だったけれど、私が歩いて行けば、渋々と言った様子でついてくる。
私は、それを察しながら、歩き進めると皆が集まる部屋へと二人を伴って入った。
中では、アシェル殿下の周りを人が囲み、皆で地図を見つめながら、たくさんの資料と情報が錯綜している。
私は、その中へと入る。
そして、それぞれの心の声を聞きながら情報を処理していき、そしてそれから視線を二人へと移すと、二人を一歩前へと促し、地図を見せながら言った。
「お二人とも、いいですか。たくさんの人が動き、情報を収集し、そしてまとめ、対策を考えております。大丈夫という言葉を私が不用意に使ったと思ったのでしょう? そんなことはないのよ」
私は二人の肩を叩き、それから集中し、周囲の心の声を聞きながら二人に小さな声で言った。
「心の声、聞こえますか? 集中して情報を精査していきなさい。そうすれば、安易な言葉ではないという確証が得られるでしょう」
アニスとルイスはその言葉に目を丸くし、それから首を横に振った。
「そ、そんなこと出来ないわ。私は、剣を持って戦う方が得意だし……」
「僕だって出来ないよ。そりゃあ……一人とかなら、ちゃんと声も聞こえるけど、この人数は」
言い淀む二人に、子どもがそんなことをしなくてもいい世の中ならばその方がいいだろうと思いながらも、私は口を開く。
「それは未来が平和ということね。ふふふ。少し安心したわ。でも、今は違う」
私はしっかりとした口調で伝える。
「多人数の声であろうとも、集中すれば聞き分けることができるわ。その人の声色を覚えておけば誰が喋っているのかも分かる」
集中し、声を聞き分けながら私は言った。
「情報を教えるわよ。いい? 先発隊捜索隊第一般がユグドラシル様がいると思われる山、ルカル山へ到着。その後音信不通。エル様を見つけたとの報告を捜索隊第二部隊から入る。第一部隊、その後命に別状なし、山脈にて発見される。エル様から伝言あり。ノア様と思われる男性を引き連れた残党がルカル山へ入った模様」
そこまで話、私は視線を二人へと向ける。
二人は愕然とした様子で目を丸くし、固まっている。
それから私は瞳をゆっくりと閉じ、心の声に集中する。
遠くの声を集めるように私は耳を澄ませていく。
ハリー様と共に訓練したことにより、私の心の声が聞こえる範囲はかなり広がった。
ゆっくりと目を開き、私はアシェル殿下に声をかける。
「アシェル殿下、一つよろしいですか」
「エレノア? どうしたんだい?」
『何か、気づいたことがあった?』
うなずきかえしながら、私は声を潜めてアシェル殿下へと伝える。
「街の人々の声が聞こえてきました。どうやら、今日の昼のノア様襲撃を目撃していた街の人々が結構いたようです。そしてその声から聞こえたのが、残党は鳥が上空を通り過ぎるようになってから現れたようです」
その言葉に、アシェル殿下は少しの間考える。
私は、言葉を続けた。
「その光景を見て、何か不吉なことが起きるのではないか、と噂があるようです。また……上空を飛ぶ鳥よりも大きなものを見た、との声もあったようです」
「巨大な……鳥……」
『まさか』
私はうなずく。
竜王国。かつて、竜族が竜を友と呼び暮らしていた緑豊かな国。大国ではなかったものの、その存在感は群を抜いていた。
だがしかし、ナナシとチェルシー様によって複数の組織が関与し、竜王国は滅んだのだ。
「「竜……」」
私とアシェル殿下は小さな声でそう呟く。
もしかしたら、あの影は竜であり、そして残党の目的はその竜なのではないか。
同じことをアシェル殿下も思っているのだろう。
それならばノア様が攫われた理由もわかる。
私達はお互いにうなずき、その後、今日の動きなどを確認していったのであった。






