13話
「エレノアちゃん。どうしよう……どうしよう。ふわぁぁぁぁん」
泣き続けるカルちゃんを、私はぎゅっと抱きしめる。
小さな体がぶるぶると震えている。
体を見れば、いたるところ怪我をしている。いつもは美しい毛並みも、泥にまみれていた。
「大丈夫。大丈夫だから、カルちゃん、落ち着いて」
そう声をかけると、カルちゃんは叫ぶ。
「私、ノアの友達なのに! 役立たずだった。何もできなかった。私のせいだ!」
大きな瞳から流れ落ちていく大粒の涙。
「カルちゃん。カルちゃんのせいじゃない。悪いのは、ノアを連れて行った人達よ」
アシェル殿下はすでに騎士達を手配し始め、ノアの捜索を始めた。
その場は慌ただしくなり、ハリー様が部屋へ入ってくると言った。
「殿下、エレノア様」
『子犬殿下。ぼんきゅーぼーん』
眼鏡をカチャカチャと鳴らしながら、机の上に資料を並べていくハリー様。
その様子はどこか焦っている様子であり、小さくため息をついてから真面目な顔で話し始めた。
「情報を入手いたしました。竜の王国を滅亡まで追いやった首謀者ナナシの一件の残党が、この町に潜伏しているらしいのです。かなり少数のようですが、何か目的があってこの地へと足を踏み入れた者と思われます」
『世話焼き竜……』
資料に目を通していくと、大きな組織が動いているわけではないことが分かる。
後ろ盾もあるわけではなさそうだ。
それなのにも何故、ノア様を攫うなどという大きなことに出たのだろうか。
アシェル殿下は立ちあがると笑顔を浮かべて言った。
「ノアはすでにサラン王国にとって大事な人材だ。誰に喧嘩を売っているのか、自覚がないようだから分からせてあげないといけないね」
『丁度残党についても調べていたところだから、さぁ、一掃作戦と行こうか』
こういう時のアシェル殿下とハリー様は息がぴったりである。
秘密裏にではあるがノア様救出作戦が行われることになるが、ここで予想外の情報が入ってくる。
どうやらユグドラシル様を捜索に行く場所へとノア様達が向かっているらしいのだ。
「どういうことだ? ……何か、関係があるんだろうか」
『うーん。分からないな。まだ情報が少ない。とにかく、僕体もそちらへ向かうべきか』
アシェル殿下は頭の中でも考えながら呟いている。
最終的に、明日の朝から移動を始めることになり、ユグドラシル様とノア様の捜索が行われることになった。
『ノア殿を絶対に救うぞ』
『カルちゃんを人質にとるなんて、なんと非道な。カルちゃんもあんなボロボロで可哀そうに』
『我らが仲間を拉致するなど! 言語道断だ!』
アシェル殿下は騎士達を交えて情報交換を行いながら話しており、私とカルちゃんはその話を聞きながらそれを見つめている。
皆がノア様を大事に思っているのが伝わってきた。
「私、絶対にノアを助ける」
カルちゃんはもう涙を止めていた。
自分が泣いていても状況は変わらないと、しっかりと怪我の治療も受け、ノア様を助けるためにと気持ちを切り替えたようだ。
強い子だ。
きっと今も泣き続けたいだろうに。
「助けましょうね」
「うん。絶対に助ける」
『私、ノアの友達だもの。泣くのはやめ。大好きなノアを絶対に救ってみせる』
カルちゃんは変わった。
最初はしゃべり方も、歩く姿勢も、全然違った。
常に周囲を警戒し、威嚇し、強くあらねばならなかったのだと思う。
だけれど、今は強さの方向性が変わったのだ。
自分らしく、そして周囲に頼りながら、強くなった。
私達はそれから日程の調整も行い、ノア様とユグドラシル様捜索へと舵を切ったのであった。






