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累計20万部突破 完結済【書籍化・コミカライズ】心の声が聞こえる悪役令嬢は、今日も子犬殿下に翻弄される   作者: かのん
第五章

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12話

 時は少し前に遡る。


 カルちゃんは私達が食事に行っている間、ノア様は休憩時間を取るとのことだったので一緒に街へと出かけた。


「ねぇ、ノア。どこ行くの?」


「ん? ほら、今日菓子店があっただろう? アニス様とルイス様がお菓子見つめながら欲しそうにしていたから、買ってきておこうと思ってな」


「あー。あのエレノアちゃんとアシェルと同じ匂いのする子どもか」


 その言葉に、ノアは足を止める。


「そっくりだもんなぁ。ふっ。この国に来てから、本当にいろんなことが起こるな」


「まだノアも詳しい話きいていないんでしょう?」


 歩き進めるノアの肩に飛び乗ったカルちゃん。


 その頭を優しくノアは撫でると歩き進めながらうなずいた。


「帰ったら話を聞きに行くとしよう。それにしても、いい風だな」


 夕暮れが街を優しく包み込んでいく。


 店の前に店主たちが明かりを灯し始めた。


 それを眺めるノアはどこか遠くを見つめて言うような気がして、カルちゃんはノアの頬に体を摺り寄せた。


「大丈夫?」


「ん? 何がだ?」


 胸に秘めた思いを語るわけはなく、こういう時にエレノアがいればいいのにとカルちゃんは思う。


 そうすればきっとノアの寂しさを分かってあげられる。


 カルちゃんがそんなことを考えているなど思いもしないノアは、店へとたどり着きお菓子を購入すると笑顔で言った。


「帰ろうか」


「うん」


 歩いていく。


 空はすでに暗闇に呑まれ、灯が温かに街を照らす。


 カルちゃんはぴょんとノアの肩から飛び降りるとテトテトと自分で歩く。


「夜の街って素敵ね」


「そうだな……」


 いつもの街とは違うので、見る物一つ一つが新鮮であった。


 だから、カルちゃんも油断してしまった。


「あ! あれ何かな」


「ん? どれだ?」


 カルちゃんは走り出し、きらりと光る街路樹の横へ向かった。


 一体何が光ったのだろうか。それに鼻を鳴らすと良い香りがする。


「カルちゃん! 待て!」


 ノアが一気に距離を詰めてカルちゃんを止めようとした時、横から幾つもの弓矢が飛んできて、ノアはそれを防ぐ。


 その一瞬が、仇となった。


「へにゃ?」


 カルちゃんの体が地面に横たわる。


「カルちゃん!」


 ノアが叫ぶ中、弓矢はなおも射られ、止まったかと思うと、見知らぬ男が、カルちゃんの体を持ち上げる。


「動くな」


 ノアは立ち止まり身構えると、カルちゃんの首を男は締める。


「うぅぅ」


「やめろ! 離せ!」


「やっと見つけたぞ。お前、竜の王国の生き残りだろう」


 男がそう言うと、カルちゃんを片腕で首を絞めながら言った。


「魔獣に効く、痺れ薬を飲ませただけだ。すぐに元に戻る。だが、お前には協力してほしい」


 ノアは殺気の籠った瞳で睨みつけると男に言った。


「協力? 友を傷つける者に協力などはしない」


「そうか」


「ふえぇぇっぇえぇぇ……」


 男はカルちゃんの首を締め付け、それにノアは叫ぶ。


「やめろ! っく……。何を……協力しろというのだ」


 その言葉に、陰に隠れていた数人の男が出てくると、ノアを取り囲む。


 そして睨むノアの首に、首輪を付ける。それは、以前のノアが囚われた際に着けられていた代物と同じように見える。


 男は楽しそうに話す。


「その首輪、闇の業界での最新作なんだよ。外そうとすれば、即座に毒が撃ち込まれる。俺から離れても撃ち込まれる。いいか、言うことをちゃんと聞くんだぞ」


「わかった。その代わり、カルちゃんを離せ」


 低い声でノアはそう言い、男は肩をすくめるとカルちゃんを地面へと落とした。


「カルちゃん!」


「ほら、ついてこい」


 取り囲んでいた男達に、ノアは顔を歪ませながら、従うしかない。


 カルちゃんは、弱弱しく声を上げた。


「のあぁ……のあぁ……」


 ノアの瞳とカルちゃんの視線が合う。それは瞳で、助けを呼んでほしいとノアが行っているように思えた。


 カルちゃんは、うなずく。


 ノアの姿は見えなくなるが、カルちゃんは、体が痙攣する中、どうにか、立ち上がる。


 何度も転び、何度もぶつかりながら、それでもエレノア達の元へと急いで助けを求めなければいけない。


「のあ……ノア……」


 涙があふれてくる。


 自分のせいだ。


 自分のせいでノアが捕まってしまった。


「エレノアちゃん……エレノアちゃん……助けて」


 涙が溢れて前が見えない。


 ボロボロになりながらも、足を止めず、カルちゃんは歩き続けた。


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