11話
温かな郷土料理は私達の心と体を癒してくれる。
だけれど、個室であり騎士達は外で待機していたことで、子ども達は気楽にしていいと思ったのだろう。
食事をしながら、今日会ったことで驚いたことや楽しかったことなどを話し始めた。
「こうやってさ、家族で長い時間いられるって珍しいからすごく楽しいわ」
「知らないことばかりだしね! ふふふ。お店でびっくり箱に驚く殿下面白かった」
お互いに顔を見合わせて、笑い合う二人。
私はそう言えばと気になっていたことを尋ねた。
「あの、心の声が聞こえるのは分かったのですが、私の声は聞こえているんですか? 実は私には二人の心の声は聞こえないんです」
すると二人はそうだったとばかりに、姿勢を正して話し始める。
「うん。僕達にもお母様、エレノア様の声は聞こえないよ。ハリー曰く、同じ力を持つ者同士だからだろうって言ってた」
「そうなの。不思議だよね」
その言葉に、私は少しほっと胸を撫で下ろした。
アシェル殿下のように私は器用に心の声を隠せる自信がない。
これまで私は両親の心の声に苦しめられてきた。だからこそ、自分が二人のことを傷つけないかがすごく不安だったのだ。
肩の荷がすとんと下りる。
「そう……そうなの」
食事が終わり夜の支度を整えると二人はすぐに寝落ちてしまった。
どっと疲れが出たのだろう。
眠る二人をベッドまで運び、それから私とアシェル殿下はそれを眺めながら侍女に用意してもらった紅茶を飲む。
すやすやと寝息を立てる二人はとても可愛らしかった。
「なんだか、不思議ですね」
「そうだね……」
自分達にそっくりな可愛らしい子ども達。
未だに自分の未来の子どもということは実感できないけれど、それでも不思議と愛おしさを感じる。
この言いようのない気持ちはどこから来るのだろうか。
「可愛いよね」
アシェル殿下がポツリと呟く。
「私も、同じこと思っていました」
「うん。僕……未来でちゃんと父親出来ているのかな」
しばらくの間、眠る子ども達を見つめていると、まるで世界の時がゆっくりになったような不思議な感覚を得る。
いつもは目まぐるしく過ぎていく時間が、穏やかに流れていった。
「未来の私達も、こうやって眺めているんでしょうか」
「そうかもね。ふふふ。僕さ、多分デレデレになっているかも。僕の両親は子育てには興味ない派だったのにな」
「そうなのですか?」
「国王と王妃だから公務中心だったね。それはそれで尊敬している。今も、そこまで関りを持っている感じでもないな。小さい頃は寂しいって気持ちもあったけど、そういうものだってなんとなーく割り切ったんだよねぇ」
確かに、アシェル殿下のご両親とアシェル殿下とが親子として接している姿はあまり見たことがないなと思う。
「そうなのですね」
「うん。でも、この子達とはちゃんと親子になりたいな。公務がいくら忙しくてもさ」
「私も……ちゃんと、接して親として大切にしたいです」
お互いに話しをしていると、アシェル殿下が不意に笑う。
「あはっ。僕達、まだ結婚もしていないのに、子育てについて話をするなんて。ふふふ」
「あ、そうですね!」
アシェル殿下は私の手を引く。
「さぁ、少しばかり二人きりの時間も過ごそう」
「ふふ。はい」
子ども達の宿泊する部屋の前には騎士に常駐してもらい、別室へ私達は移動する。
そこからは、少し仕事を忘れてお互いのことを話した。
何が楽しかったかや、美味しかったものなど。
「エレノア。結婚式が楽しみだね」
「そうですね。その前に……色々とはありそうですけどね」
「そうだねぇ。色々……ありそうだね」
私達は笑い合っていた時だった。
「エレノアちゃん! エレノアちゃん!」
部屋の扉が勢いよく開き、カルちゃんが部屋の中へと走りこんできた。
一体どうしたのだろうかと思っていると、カルちゃんが大きな声で叫んだ。
「ノアが! ノアが、私のせいだぁぁぁぁ!」
それから泣きじゃくりはじめたカルちゃん。
何があったのかと思いながら、カルちゃんを私は抱き上げた。
カルちゃんは私の腕の中で鳴き声を上げており、その背中を私が優しく撫でる。
アシェル殿下は外に控えていた騎士に大丈夫だと伝えたあと、私達の元へと戻ってきた。
「どうしたんだい?」
『ノア? ノアに何かあったのか?』
カルちゃんは、鳴き声を堪えながら話し始めた。






