10話
私達も話を聞きながら進んでいった時のことだった。
突然、遠く山からたくさんの鳥たちがけたたましい鳴き声を上げながら空を覆いつくすように飛んでくるのが見えた。
その光景に、皆が騒然とする。
そして領主が呟いた。
「またか……一体、何が起こっているのだ」
その光景を私は見つめながらふと、鳥たちが飛んでいるよりも遥か上空に、何か影が通ったように見えた。
「何……?」
それは一瞬のことで、見間違いかもしれない。
アシェル殿下が鳥達が通り過ぎっていったのを見送ってから尋ねた。
「今のは?」
「ここ最近なのですが、あぁやって鳥達が何かから逃げるようにして飛んでいくのです。ただ、原因は今の所わかっておりません」
「なるほど……」
飛んできた方角を私達はじっと見つめる。
その方角は、今後、ユグドラシル様を探しに行く目的地がある場所だ。
関係あるのかないのか、今のところは分からない。
領主は、今のところは被害も何もないので、不安だけ感じていると話を聞いた。
アシェル殿下は、何か分かり次第領主にも伝えるとし、その後、街の紹介をしばらく受けたのちに、私達は自由に街を見て回ることになった。
領主とは街の中央で別れる。
私はアシェル殿下の横に並んだ。
「先ほど、鳥達の上空に、何か見えませんでしたか?」
「え? ……僕には見えなかったよ。でもさ、なんだか不吉だよね」
「はい……」
そんな会話をしていた時であった。
「お待ちください!」
『おいおいおい。勝手に動き出そうとしないでくれ!』
そんな騎士の声が聞こえて振り返ると、アニスとルイスがそれぞれ移動し始めようとしている所であり、騎士達が慌てた様子である。
二人はそう言われて少しむくれる。
「「ごめんなさーい」」
そう答えながらも、ちらちらと動きたそうにしている。
好奇心旺盛なところは良いのだけれど、やはり危ないので勝手には動いてはいけない。
そう思った時、ノア様が二人の後ろについた。
「お二人とも。街の散策は初めてですか?」
『可愛いな。だが、今は街の視察の為にここに来たのだという理由をしっかりと分かってもらわねばな』
二人はノア様をじっと見つめたのちに、すっと背筋を伸ばす。
「えっと、そう、初めてなの」
「だから、ちょっとね」
どこか緊張している様子の二人。
「そうですか。もっと自由に見て回れたらいいのですが、今回は騎士の人数も限られているので、一緒に見て回りましょうね」
『エレノア様に、二人についていてもいいか聞いてみよう』
ノア様のその一言に、二人は少しばかり顔を強張らせて言葉を返す。
「ごめんなさい。少しはしゃぎ過ぎたわ」
「気を付けるよ」
二人の様子にノア様は優しく微笑む。
「初めてであれば、はしゃぐのも仕方ありません。お二人ともすぐに行動を改められてえらいですね。すぐ傍に私は控えていますから、いつでも声をかけてください」
『素直ないい子達だ。こちらの考えを読み行動を変える。えらいじゃないか』
ノア様の言葉に二人に、二人が笑みを堪えているのが私には分かる。
もしかしたら二人にとってノア様は特別な存在なのかなとそう思う。
ノア様は私達の横にやってくると、小さな声で尋ねた。
「エレノア様、あのお二人に私はついていましょうか?」
『少しばかり、危なそうだ』
その言葉に私とアシェル殿下はうなずき、視線を二人へと向けると、しまったというような顔を浮かべていた。
実に分かりやすい二人だ。
ノア様は二人の後ろにそっとつき、私達は笑った。
「ノア様って、なんというか、本当に面倒見がいいですよね」
「うん。きっと未来でもさ、二人はあぁやって、ノアに見守られているのだろうね」
「ふふふ。その光景が目に浮かびます」
「僕も」
笑い合っていると、二人が私達を挟むようにして駆け寄って来た。
「あー。結局いつもの図だわ」
「未来でもノア様っていつも僕達の後ろにいるんだよ」
その言葉に、やっぱりそうなのかと笑い声をたてた。
「二人も、迷惑かけていませんか?」
そう尋ねると、少しの間がある。
それにまた笑ってしまった。
その後、私達は街を見て回りながら、買い物をしたり、特産品を食べたりもしたのだけれど、子どもがいるとこんなにも賑やかなのだなと驚いた。
「エレノア様! 次! 次あっち行こう!」
「殿下も! ふふふ。二人とお出かけってなかなかできないから嬉しい!」
すごくはしゃいでいる。
先ほどノア様の前で見せた愁傷な姿はどこへやら。
あっちへふらふら。こっちへふらふら。
嵐のような二人の行動に、目まぐるしく時間が過ぎていく。
「ま、待って。二人とも!」
「勢いが、勢いがすごい!」
手を引かれてどんどんと見て回っていくからか、子ども連れだからなのか、街の人達も私達のことを温かな瞳で見守ってくれている。
街の人々にはいつもの生活が見たいから普通に接してほしいと話を通しているのだけれど、以前はかなり緊張感があった。だけれど、子ども達がいるだけでその雰囲気が和らいでいる。
「まぁまぁ、なんて可愛らしい」
『今回は小さなお子様もご一緒なのね? 親戚の方かしら。ふふふ。可愛いわ』
「うちの店もぜひ、見ていかれてください」
『子どもが喜ぶもの、あったかなぁ。退屈しないといいが』
しかも二人の人との交流力がすごい。
「わぁ! 見て行ってもいいですか? 失礼します」
「すごい! 色々な品物が置いてありますね。これはなんですか?」
私は自分が幼かった時、こんなにも自分から人に声を掛けられただろうか。
分からないことは素直に尋ね、会話が途切れないように質問を混ぜながら街の人々の声を引き出していく。
素直にすごいなと思いつつも、自分もまけていられないので私も会話に混ざる。
「私も始めて見ます。教えていただけますか?」
店主は嬉しそうに微笑む。
「もちろんです!」
『貴族の方々なのに、偉ぶることなく話を聞いて下さる。素敵な方々だな』
そう思ってもらえて光栄だなと思う。
「面白いものがたくさんあるね。やはり、街によっても特色があるな」
アシェル殿下の言葉に私達はうなずき、新たな発見一つ一つに心が躍ったのであった。
その日はあっという間に過ぎていき、夕食は領主にお勧めしてもらった街の食堂で食事を済ませた。






