十五話 群がる者達
ハリー様と一緒にアシェル殿下の元へと帰ろうとしていると、そこからは心の声の嵐のようであった。
『美しい、せめて一夜の夢だけでも!』
『エレノアタン! エレノアタン! 愛してるぅ~』
『あーもう、舐めまわしたい』
『あぁぁぁぁぁ。あんなことやこんなことをしたい! あぁぁぁぁぁ』
男性らの心の声の嵐に、私は頭を押さえたくなるのを必死で堪えると、表情をすんっと消し、男性達が話しかけにくい雰囲気を体に纏うと、アシェル殿下の所へと一目散へと帰ろうとした。
とにかく一時でも早くアシェル殿下の所へ帰りたい。そう思ったのだけれど、そんな私の目の前に、ジークフリート様が現れた。
さっき、貴方危なかったのよ? 感謝してほしいんだからと思いながら、だからそこをどいてと言いたくてたまらない。
「エレノア嬢。こんばんは。本日もとてもお美しいですね」
『わぁぁぁっぁ。何だこれ、何だよこれ。顔が、熱い。俺、どうしたんだ? こんな女、どこにでも、どこにでも……いないか。くそっ。何だよこれ』
心の中で大混乱しているジークフリート様に、私は一体どうしたんだろうかと思いながら小首をかしげる。
「ありがとうございます」
とりあえずはそう答えたのだが、心の中は更に荒れていくく。
「よろしければ一曲お付き合いいただけませんか?」
『こてんって、こてんって効果音が聞えたぞ!? え?! 何だよこれ』
姿勢としては、ジークフリート様は私に手を差し出している。
ただ、頭の中で効果音が聞こえるとは、ジークフリート様も何かしらの力でもあるのだろうか? それとも何かの造語なのだろうかと考えるが、そこで一つの考えが頭をよぎる。
毒には口を着けていないと思っていたが、飲んでいたのだろうか。
そして意識が混濁しているのではないか。
そう思い、私は思わずジークフリート様の差し出された手を握る。
手はかなり熱いように感じて、私は尋ねた。
「ジークフリート様、大丈夫ですか? 手がとても熱いようですが、熱でもあるのでは」
「いえ、大丈夫です」
『手がぁぁっぁぁっぁぁっぁぁぁっぁぁぁっぁ』
いよいよ大丈夫かと心配になり、顔を見上げる。
『上目使いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっぃ』
『ぼん、きゅ、ぼん!』
「え?」
思わずジークフリート様から手を離し、ハリー様を振り返る。
心の声についつられてしまったと思うが、目が合ったハリー様は首を横に振った。
これは、ダンスを踊ってはダメだと言うことだろうかと思っていると、ジークフリート様が多少鼻息荒く私の手をもう一度取った。
「いきましょうか」
『頑張れ俺、頑張れ俺。って、俺は童貞じゃないんだぞ……しっかりしろ!俺!』
その時だった。
私のもう片方の手をアシェル殿下が引き、自分の胸の中へと私を抱き込んだ。
突然のことに私は動揺していると、アシェル殿下の心地の良い声が聞える。
「エレノア嬢。そろそろ、戻っておいで」
『ジークフリート殿……何のつもりだよ。やめて、エレノア嬢は、僕の婚約者だよ! 減るから!』
少し早く鳴る心臓の音が聞こえた。
急いで迎えに来てくれたのだろうかと、そう思うだけで、私の心はきゅんとした。
読んでくださる皆さまに感謝です。(*'ω'*)