2話
ロマーノ王国の一件から早数か月。
魔法の王国であるロマーノ王国を思い出し、私は少し懐かしくなる。
アシェル殿下の友人であるレガーノ様の戴冠式の為に赴いたロマーノ王国。
魔法の国というだけあって、私の知らない世界がそこには広がっていた。
街の中には、見たこともない魔法が溢れており、お伽噺の世界のようでアシェル殿下と街を散策したのも良い思い出だ。
ただ、魔法の王国だからこそ魔法が仕えない人間にとっては住みにくく生きにくい差別のある国であることも事実だった。
そしてそれは魔力を持たないレガーノ様の妹君であるメローナ様を孤独にするのには十分な理由だった。
ずっと一人できっとメローナ様は寂しかっただろう。
そんなメローナ様の寂しさをずっと支えていたのは、魔石で動く不思議なくまのぬいぐるみのくまたんだった。
ただ、メローナ様の幸せを願うあまり暴走し、私の記憶を奪ったり、アシェル殿下と引き離されそうになったり大変だった。
けれど、最終的にはくまたんが暴走したことで事態が動き、メローナ様は家族と和解することができた。
メローナ様の笑顔を思い出せば、困難もあったけれど丸く収まって本当に良かったと思える。
ただ、記憶を奪われた時のおそろしさは今も忘れることはなく、だからこそ記憶が戻って本当に良かったとそう思う。
ロマーノ王国から届いた手紙には、今幸せなことが良く伝わってくる文章が並べられていた。
「良かった。ふふふ。レガーノ様も、ソレア様も、メローナ様を溺愛しているようね」
家族仲が良いというのは幸福なことだ。
私は机の上に届いている、手紙を眺めながら笑みを浮かべる。
「ふふふ。昔は私にこんなにお友達が出来るなんて想像もできなかったわ」
メローナ様からの手紙だけではなく、机の上にはオリーティシア様やココレット様からの手紙もある。
瞼を閉じれば、これまでのことが思い出される。
「色々なことがあったわね」
たくさんの思い出。
昔は屋敷の中だけが私の世界だった。
だけれど今では、こんなにも私の世界は広がった。
そしてもうすぐ、私の世界は更に変わっていくことだろう。
「エレノア様。アシェル殿下がお見えです」
『手紙、嬉しそうで良かった』
隣に控えていたノア様にそう声をかけられ、私は返事を返す。
「わかりました。今行きますね」
手紙は大切に引き出しの中へと仕舞う。手紙が増えるごとに宝物が増えているようなそんな気がして、なんだか引出しをしめる瞬間も好きだ。
「……すぐに会いに行けたらいいのに」
手紙よりも、もっと近くでしゃべったりできたら、もっといいのになとやはりどんどんと欲張りになり思ってしまう。
魔術具もどんどんと進歩してきてはいるが、やはり材料不足の問題や国交の問題などがある。
もっと国と国とを自由に生き記できるようになったらいいが、それもそう簡単なことではないだろう。
立ちあがると私はノア様とカルちゃんと共に隣の部屋へと向かう。
最近、カルちゃんはノア様の肩にずっと乗っていて、どこに行くのにもついて回っている。
ちょこんと乗る姿が可愛い。
「ふわぁ。エレノアちゃん。私、後でおやつに果物食べたい」
『ノアってば、すぐにごはん食べないから、私がちゃんとノアに栄養補給させないとね!』
カーバンクルのカルちゃんは、最近ノア様のお世話を焼くのも楽しいようで、しょっちゅうノア様に美味しい物を食べさせようとしている。
そんな姿は現在いたるところで目撃されているのだが、それを見た騎士達は、いつもは基本無表情なノア様がカルちゃんの前では柔らかく笑うものだから、びっくりされるらしい。
ノア様もカルちゃんのことを可愛く思っているようで、たまに、カルちゃんの寝顔を見ながら可愛いと心の中で呟いている。
あまり顔には出さないけれど、心の中では結構デレデレな時がある。
ノア様の意外な一面を知った。
「ふふふ。二人が仲良しで嬉しいです」
私がそう呟くと、ノア様は微笑みながらカルちゃんの頭を撫でた。
『仲良しか。ふふ。そうだな……仲良しかな。カルちゃんもそう、思ってくれているといいな』
『そうよ! 仲良し! ノアってば私がお世話してあげなきゃだめなんだから!』
心の中で会話しているようなそんな二人の姿も微笑ましい。
ノア様の表情は以前よりも穏やかになったように感じる。
そう思うと、良かったと私も嬉しく思うのだ。






