表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/176

十四話 魅了する微笑

 その微笑を見た者達は、息を飲んだ。


 艶めかしい、赤い唇がゆっくりと弧を描き、アーモンド形の大きな瞳がこちらを見つめる。


 アシェル殿下の婚約者となったエレノア嬢は妖艶姫として名高い令嬢ではあったが、その表情はあくまでも強張っており、微笑む姿は、ここ最近、アシェル殿下の横であれば見ることが出来るようになった。


 けれど、そういった類の微笑ではない。


 今、エレノア嬢が浮かべた微笑で、何人の男の心臓が射抜かれたであろうか。


 恐らく一番、混乱しているのはジークフリート王子であろう。


 顔を真っ赤にして心臓を押さえ、ワインを落としたことにさえ気づかずに、呆然とエレノア嬢が去っていた方向を見つめている。


 自分自身に何が起こったのか分からずにいるその表情は、惚けている。


 そして数人の男性は顔を押さえ、数人の男性は静かにトイレへと向かっている。


 何と言う破壊力のある微笑であろうか。


 よくよく観察してみれば、女性の中にもその微笑に射抜かれたものがいるようで、顔を赤らめながら、エレノア嬢について何やら集まって語りだす集団さえいる。


 アシェル殿下は大変な方を婚約者にした。


 僕はそう思いながらも、落ちたワイングラスを片付けるように執事に命じながらも、呆然としているジークフリート王子の横で、そのワインから微かに異臭がすることに気付く。


 何だろうかと鼻を鳴らし、微かに毒の匂いをかぎ取る。


 これは、アシェル殿下に盛られるように最初に計画されていた毒である。


 僕は遠くに逃げていく伯爵の姿を目でとらえ、それからエレノア嬢の立ち去った方向を見つめる。


 偶然か、必然か。


「っくそ……なんだ、これ、顔が、熱い」


 ジークフリート王子の呟きに、僕はどうしたものだろうかと頭が痛くなってくるのを感じる。


 他国の王子と女性の取り合いなど出来る限りしてほしくはない。だからこそ、ジークフリート王子には胸に秘めていただきたいと思うのであるが、どうなるだろうか。


「この俺が? まさか、たかだか一人の女なんかに?」


 心の声がだだ漏れているジークフリート王子に、僕はため息をつきながらもその場から離れる。


 執事には、片付けた後に毒などが入れられていなかったか調べるように伝えてある。


 ジークリート王子が飲まなかったことが幸いではあるが、ばれないように片付けなければ国際問題になりかねない。


 その時だった。


 会場内に彼女が帰って来るのが見えた。僕はアシェル殿下の指示通りにエレノア嬢を迎えに行く。




 私は化粧を軽く直して会場に帰ると、私の元へと向かってくるハリー様と目があった。


『ぼん、きゅ、ぼん』


 頭のよさそうな見た目をしているのに、ハリー様の思考回路は未だに理解不能である。

 



ブクマや評価よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミカライズはこちらから

img_f13f059679b249de89cae1c4b84edf7a2060
書籍特集ページはこちらから
小説版のサイトはこちらから

img_f13f059679b249de89cae1c4b84edf7a2060
書籍特集ページはこちらから
― 新着の感想 ―
ハリーさんがまともだとw ぼんきゅぼんがないとさみしいと思ってる自分に驚いたw 全部計算だったら、この人すごいな。
[一言] 出た〜! ぼん、きゅ、ぼん 短いバージョン(笑)
[良い点] ハリーさん、最初はエレノアを記号的な扱いすんなよと思ってみてましたが、途中からアレこの人表層の思考読ませない(意識的にかはわからないけど)カバーしてる?と思い始めて、今回でちゃんと人を見て…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ