25話
その後、私達は怪我などないか、また記憶のおかしい所は本当にもうないかなど医師に診てもらうことになった。
ノア様はとても心配してくれていたのだろう。
私を帰って来たのを確認した瞬間に、悔しそうに護衛として不甲斐ないと何度も謝罪を受けたのだけれど、今回の一件は防ぎようがないと私は伝えたのであった。
その後は私はかなり疲労がたまっていたのであろう。
泥のように眠ってしまったのであった。
目覚めたのは翌日の昼過ぎであり、私は侍女に世話をしてもらい支度を整えると、ノア様との朝の挨拶を済ませた。
ノア様は、私が部屋にいることにすごく安心したかのように息をつき、心配をかけないように気を付けようと思ったのであった。
ちなみに、カルちゃんも相当私を心配したようで、私に会えるまではずっとノア様がお世話をしてくれていたようだ。
カルちゃんは今私から離れなくなり、肩にずっと乗っている。
その後、私達には呼び出しがかかり、応接室へと向かったのであった。
応接室には、ソレア様、レガーノ様、メローナ様、そしてアシェル殿下の姿があった。
メローナ様の膝の上にはくまたんが乗っているけれど、その首には宝石の付いた首輪がはめられていた。
まずロマーノ王国側から正式な謝罪を受け、私はそれを受け入れた。
ちゃっかりとハリー様が今回の一件について穏便に事を進める代わりに、ロマーノ王国とサラン王国の友好的なつながりを作っていたのには苦笑してしまった。
ただ、メローナ様のことが心配だったので、私は尋ねた。
「ご家族は和解されたのですか?」
メローナ様を真ん中に、ソレア様とレガーノ様に挟まれて座っており、少し照れた様子でメローナ様がうなずいた。
「はいっ。二人共、私のこと、大好きだって、言ってくれました」
『夢みたい』
嬉しそうにメローナ様はそう言うと、レガーノ様とソレア様の手をぎゅっとにぎり微笑んだ。
仲直りが出来たならばよかったなと私はほっとしたのであった。
三人はそれまで自分がどう思っていたのか、だからどう行動してきたのか、話し会ったのだと言う。
その中で、ソレア様は王国のためにとの重責の中で、最も安全して自分の子が過ごせるようにとの判断だったらしい。
現在、非魔力保持者の私達を誘拐した者達はすでに捕らえられているとのことであった。
ソレア様はその動向を事前に把握し、部下を組織の中に潜入させており、本来ならばメローナ様を誘拐されたのちに罪を着せ、辺境の安全な土地で、メローナ様には幸福を歩んでほしいと願っていたようだ。
レガーノ様もソレア様の考えを知らなかったようで、今回話し合いを通じて和解できて本当に良かった。
くまたんは安全のために首輪をつけられることになった。
魔法は基本的に使えないかわりに、メローナ様の傍にいても良いことに決まったそうだ。
「メローナ様、良かったですね」
私が微笑みそう田 得ると、幸せそうな笑顔をメローナ様は向けてくれた。
自分には得られなかった家族の愛。
その幸せそうな姿に、なんだか自分も救われたような気持ちになった。
私とアシェル殿下はその後下がると、手を繋いで部屋へと戻った。
そしてその後はまたお互いに別室に分かれる予定だったのだけれど、私は部屋の前でアシェル殿下の手を離せず、ぎゅっと掴むと言った。
「少し、二人でお話しませんか?」
アシェル殿下は微笑むとうなずき一緒に部屋へと入ったのであった。
ノア様達は部屋の外で待機しており、私はアシェル殿下と横並びで座ると、そっとアシェル殿下に引っ付き、その温かさにほっと息をつく。
「エレノア?」
『かーわーいーすーぎーるーよ』
私はアシェル殿下の手をぎゅっと握りながら、すりすりとすり寄り、それから言った。
「すみません……少し……甘えたくて……」
「うっ」
『可愛すぎる。可愛すぎる。可愛すぎるよぉ』
私のことをアシェル殿下は膝の上へと抱き上げるとぎゅっと抱きしめてくれる。
抱きしめあっていると、温かさを分け合えるようで、私はほっと息をついた。
「……エレノア、大丈夫?」
私のことを抱きしめながらそう尋ねられ、私はアシェル殿下の胸に顔を埋めながらうなずいた。
「はい……でも……」
「でも?」
「……もう少し引っ付いていてもいいですか?」
アシェル殿下とずっとできれば引っ付いていたい。
そんな私の言葉に、アシェル殿下の心の声が聞こえなくなり、顔をあげると、耳まで真っ赤にしたアシェル殿下は、何かに耐えるように瞼をぎゅっと瞑っていた。
「アシェル殿下?」
「ごめん。エレノアの可愛さが爆発していて……僕は今理性と戦っている」
「え?」
理性?
私がきょとんと首を傾げると、アシェル殿下は私のことを見つめ、私はドキリとして、急に引っ付いているのがいけないことをしている気がして離れようとした。
そんな私のことをアシェル殿下は抱きしめ、耳元でささやいた。
「エレノア。好きだよ」
「あ、アシェル殿下」
「僕もね、何度でも君に恋をするよ」
「あ……」
聞こえていたのかと思った私の唇に、そっとアシェル殿下の唇が重なる。
私はうるさくなる心臓の音を感じながら、身を強張らせていると、そんな私の頭を優しくアシェル殿下は撫でた。
「ふふ。ごめんね。エレノアが可愛すぎて、我慢できなかったや」
「あ、アシェル殿下……」
「たまに、エレノアが可愛すぎて困っちゃうよ」
「あ、アシェル殿下も、か、可愛いですよ?」
「え? 僕?」
「は、はい。アシェル殿下も可愛いです」
それにアシェル殿下はこてんと首を傾げた。
「可愛いよりかっこいいって思われたいんだけれど」
そういうところが可愛らしいんですと思ったけれど、先ほどキスされた時は、かっこよかったなぁと思い、私は頬が熱くなる。
それに、可愛くてもかっこよくても、私はアシェル殿下が好きだ。
私は、呼吸を整えると言った。
「私……記憶が抜け落ちてしまった時、すごく、すごく怖かったんです。一番傍にいてほしい大好きな人のことが思い出せなくて……そしたら不安で、ずっと、心に穴がいているようで……」
「エレノア……」
「私、アシェル殿下のことが、大好きです。だから、これからもずっとそばにいてください」
記憶を思い出したと言うのに、すごく心の中が不安で、それを埋めたくて私はアシェル殿下に引っ付いた。
そんな私の不安を包み込むように、アシェル殿下は私の手を取ると言った。
「もちろんだよ。僕、もうエレノア以外と一緒にいる未来なんて考えられないよ。僕の隣にはエレノアがいて、そしてエレノアの隣に僕はいたい」
その向けられた微笑みに私はほっと胸をなでおろした。
一緒にることが当たり前だと思っていても当たり前でなくなるのは一瞬なのだ。
だけれどずっと一緒にいたいから、私はこの幸福な時間が続くように努力をしようとそう思ったのであった。






