十三話 毒を盛られる予定の舞踏会
私の今日来ているドレスは、青色を基調としたものでありカラフルな花々がちりばめられている。ふんわりと広がるそのドレスの後ろには大きな羽のようなリボンが広がり、まるで蝶のようである。
今までこういったドレスはあまり着たことが無かったのだが、アシェル殿下が今回の一押しのドレスはこれだととても楽しげな様子でプレゼントしてくれたのである。
「……毒を盛られる予定の舞踏会だっていうのに、アシェル殿下は余裕ね……」
部屋の中で私は思わずそう呟き、そして、気合を入れる。
アシェル殿下達は私の一枚も二枚も上手だけれど、もしかしたら、私にもできることがあるかもしれない。
だからこそ、気合を入れる。
「私に出来ることを見つけましょう!」
私はその後アシェル殿下と共に舞踏会へと参加する。
アシェル殿下は藍色で私のドレスと色を合わせており、私は一瞬見惚れる。
「エレノア嬢は、何でも似合いますね」
『今回のドレスもよく似合っているー。うん、僕ってセンスがあるな。エレノア嬢が可愛すぎるよー』
「ありがとうございます。アシェル殿下も素敵です」
「本当に? ふふ、ありがとう」
『わぁぁぁぁ。かっわいい。ふんわり笑ったら妖精さんかな? ここに、妖精さんがいるよ? あぁ、今日は気合を入れないといけないっていうのに、気合が抜けちゃうよ』
それは困ると思いながらも、アシェル殿下の声はとても心地の良いものだった。
いつものように舞踏会場の中は様々な声で溢れかえっており、気分が悪くなる。
けれど、慣れてくれば、誰が何を言っているのか、心の声に集中すれば聞こえてくる。
私達はファーストダンスを踊り終えると、それに次いでルーベルト殿下が令嬢と踊る。そして、他の者達が踊り始める。
ダンスホールには令嬢達という美しい花で色とりどりに煌めく。
アシェル殿下と私は一緒に会場内を回り、貴族らへと挨拶をしていく。
私はそんな中で、アシェル殿下への皆の期待や、不満に思っている者達の心を読み取りながら、頭の中に記憶していっていた。
その時である、執事が持ってきたワインを、アシェル殿下が受け取った。
『飲め、飲め! さぁ早く! それを飲んで死んでしまえ!』
悪意のこもったその声に、私はごくりと息を飲みながら、声の主を見つける。
第二王子過激派に属するロラン伯爵、エージアン男爵、ジャルド子爵などなどがさりげなく視線をワインへと向けにやりと笑う。
私は大丈夫だろうかとアシェル殿下へと視線を向けると、アシェル殿下は飄々とした顔でワインを飲み干した。
『きたきた~。あぁ、よかった。ちゃんと動いてくれて。これで一掃できるなぁ。ちゃんと今回かかわった者達は調べてあるし、僕に毒を持った罪で咎められるし、うんうん。いい感じー』
私は目を丸くした。
今、アシェル殿下は毒を飲んだのだ。
「アシェル殿下?」
思わず声をかけると、アシェル殿下は小首を傾げた。
「どうしました?」
『不味かったな。まぁ、多少の毒は平気だし、潜入させていた仲間に毒はすり替えてもらっているし、念のために解毒薬も飲んでるから大丈夫なんだけどさぁ~』
その言葉に、私は静かに息を飲んだ。
王族とは、命を狙われることもある。だからこそ、毒に幼い頃から慣れさせるとは聞いたことがある。
けれど、それを平然と受け止めるアシェル殿下に、私は胸がいたくなった。
「アシェ」
名前を呼ぼうとした時であった。私の耳に、心の声が響く。
『くそっ、何故死なない。あぁっ! くそ、もしやばれていたのか。くそくそくそ。どうにか逃げる方法は!?そうだ、騒ぎを起こせばいい!』
私は思わず後ろを振り返る。
視線の先にいた、ロラン伯爵が近くにいた執事の持っていたワイングラスに何かを入れるのが見える。
そしてそれは運ばれていくのだが、それがジークフリート様の手に渡るのが見えた。
『あー、どうやら王子様達はちゃんと把握していたみたいだな。後は主犯が後から捕まるっていう算段かな』
私はアシェル殿下に言った。
「すみません、少し化粧を直してまいります」
「ん? あぁ、いってらっしゃい」
『どうしたんだろう? 焦っている?』
私はあくまでも優雅に見えるように会場内を移動し、そしてジークフリート様の横を偶然にも通り過ぎようとした体を装う。
そして、ふと、視線が重なるように顔を上げる。
ジークフリート様と視線があい、私は、もっとも男性が好む、美しい微笑を携えた。
『なっ!?』
ジークフリート様の心は荒れ、そしてワイングラスを手から落とした。
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