17話
眩しい光が差し込み、私はその眩しさに意識が浮上し始める。
温かな太陽の日差しに、私は覚醒していく意識の中で、非魔力保持者達のことを思い出してハッと飛び起きた。
そこは、広々とした部屋であり、太陽の光はカーテンの隙間から差し込んできていた。
私達は縛られており、私より先に起きていたアシェル様が静かな声で言った。
「おはようございます。……どうやら朝が来たようですね。私も少し前に目を覚ましたところです」
「アシェル様……ここは?」
「非魔力保持者達の隠れ家なのでしょう」
「そう……ですよね」
部屋の中は簡素だけれど決して汚くはない。
綺麗に手入れをされており私達が寝かされていた場所にはクッションが敷かれ、毛布も掛けられていた。
ただ、手足がしばられているので身動きは取れなかった。
「縄もきつくは縛られていませんから、恐らくこちらに危害を加えるつもりがないと言うのは本当のことなのでしょう。エレノア嬢。すみませんが周囲に人がいるか、心の声を聴いて探ってもらえますか?」
「え?」
何故アシェル様が私の心の声が聞こえるという能力を知っているのだろうか。
私が驚いているとメローナ様が起き、私達を見てそれから部屋を見回した。
「これは……ご、ごめんなさい。あの人たちの狙いは私だったのに、巻き込んでしまいました」
顔を真っ青にするメローナ様に、私達は励ますように首を横に振って言う。
「メローナ様のせいではありませんわ」
「そうですよ。誘拐をするような人間が悪いのです」
「……うぅぅ。本当にごめんなさい」
その時、部屋の扉がノックされ、私がハッと顔をあげると心の声が聞こえてくる。
『さて、メローナ様は私達の話を聞いてくださるだろうか……メローナ様だけが、非魔力団体の、私達の希望なのだ』
悪意があるわけではなさそうだとほっとすると、昨日会ったジョバンニという男性と数人の女性が部屋に入ってきたのであった。
「おはようございます。今縄をほどきます」
『さて、まずは話し合いだ』
女性達は私達の方へと来ると、ジョバンニが言ったように縄をほどいた。
机の上に軽食が用意され、ジョバンニは椅子に座ると、反対側の椅子を私達に指示した。
「どうぞ。おかけください。朝食を簡単にですが用意しました。どうぞ。食べながら聞いていただけたらと思います」
『上手くいけばいいのだがな』
アシェル様は優しく微笑みを浮かべると私達を安心させるように言った。
「まずは話し合ってみましょう」
私はうなずき、メローナ様も同意すると、私達は席に着いた。
その様子にジョバンニはほっとした様子で軽食を進めてくる。
「どうぞ。その……簡単なものしかありませんが」
『私達が出来るもてなしの精一杯だ……』
アシェル様は静かに口を開いた。
「軽食は結構。どうして誘拐したのか、早々に教えていただきたい」
真っすぐに冷静な口調で放たれた言葉に、ジョバンニは背筋を伸ばすと、メローナの方を向きながら言った。
「……我々、非魔力保持者には……メローナ様が必要なのです」
『私達には希望が必要なのだ』
「私が? あの、どうして私が必要なのですか?」
『怖いけれど、無事に帰してもらえるように、話しを聞かなくちゃ』
勇気を振り絞ってそう尋ねたメローナ様の問いに、ジョバンニはすぐに答えた。
「非魔力保持者にとって……このロマーノ王国は本当に住みにくい国なのです。ですが、非魔力保持者の私達だって、ロマーノの国民です! そしてメローナ様、非魔力保持者である貴方様は私達にとっては希望の光なのです!」
『だからこそ、非魔力保持者団体に協力してほしい!』
「希望の星ですか?」
『私が? 私なんかが?』
「そうです。ですからどうか、私達と共に、魔力優位社会であるロマーノ王国を変えてほしいのです!」
『メローナ様が王になれば! この国は変わるはずだ! 非魔力保持者の我々もきっと暮らしやすい国になる!』
その言葉に、私はぞっとした。
それはつまり、メローナ様に兄から王座を奪い取れと言っているようなものではないか。
恐ろしいと思った時であった。
先ほど縄を解き、後ろに控えていた女性から心の声が聞こえた。
『もう間もなく、王太后様の兵がここへとやってくる……そうすれば、非魔力保持者の皆も、メローナ様も、同時に捕縛できる』
どういうことなのだろうか。
後ろの女性は非魔力保持者達の仲間ではないのか。
私は諜報活動をしている人物なのだろうかと思いながら、それと同時にソレア様はメローナ様が攫われた事実を知って兵を動かしてくれたのだろうかと考える。
だけれども、メローナ様も同時に捕縛できると先ほど呟かれた……。
これは一体どういうことなのだろうかと思っていると、メローナ様が口を開いた。
「私は、お兄様と争うつもりはありません。私にも魔力はありませんから……非魔力保持者の皆様がどれほど辛い目にあっているのか、それはよくわかります。ですが、だからと言ってロマーノ王国を混乱させるようなことは出来ません」
真っすぐに心の赴くままに呟かれた言葉。
その言葉に、私はメローナ様はしっかりと志を持った女性なのだと感じた。
まだ十歳の少女なのに、王族としてしっかりと王国の為に行動するという覚悟が出来ているのだ。
だけれど、そんなメローナ様を、ソレア様はどう思い、今後どうするつもりなのだろうかと私の中に不安がよぎった。






