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累計20万部突破 完結済【書籍化・コミカライズ】心の声が聞こえる悪役令嬢は、今日も子犬殿下に翻弄される   作者: かのん
第四章

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16話

 アシェル様はとても穏やかな方で、挨拶を済ませたたあとはすぐに仲良くおしゃべりすることが出来た。


 知らない男性をとも思ったのだけれど、メローナ様がお茶会に招いたことで一緒の席に着いたのだ。


 アシェル様はメローナ様の話を熱心に聞いてくれて、そればかりかとても表情が豊かで穏やかな雰囲気。


 私とメローナ様は顔を見合わせると言った。


「王子様みたいです」

『アシェル様って……素敵ね』


「本当ですね。まさに、理想の王子様です」


 私達の言葉に、アシェル様は苦笑を浮かべる。


「そう、ですかね? まぁ……そう、私自身も意識していますから」


 優しく微笑んでいるのに心の声は聞こえず、不思議な人だなと私は思う。


 ただ、不意に心の中で記憶がまるでちらりと見えたように声が聞こえた。


【むぅ……王子って難しいよね。あー。僕も頑張んなきゃな!】


 誰の声だっただろうか。


 ただ、視線をアシェル様へと向けると優しい微笑みを返され、先ほどの声と姿が重なる。


 不思議な感覚に何だろうと思っていると、メローナ様が立ちあがっていった。


「あ、あの! 私お二人にもっとこの国を紹介したいんです」

『せっかくだから、もっと色々なことをしたい』


 その言葉に私はうなずく。


「もちろん。メローナ様がいいのであれば教えてください」


「私にもぜひ」


 私達がうなずくと、メローナ様は楽しそうに高揚した表情でうなずく。そしてベルを鳴らすとリュックサックが机の上に現れた。


 メローナ様はクマのぬいぐるみをりゅっくに頭だけ出して入れ、それを背負う。


 私とアシェル殿下が立つとその間にメローナ様は入り、それから私とアシェル様の手を取り三人で並んで歩く。


「ふふふ。なんだか親子見たいですねぇ」


 私がそう言うと、メローナ様は驚いた顔をしたのちにすごく嬉しそうに笑い、アシェル様の方を見ると、顔を真っ赤に染め上げていた。


「え? アシェル様?」


 私が驚くと、アシェル様は片手で顔を覆い、それから小さな声で言った。


「すみません……照れてしまいました」


 つられて私も照れてしまい、私達何とも言い難い雰囲気でいると、メローナ様が私達の手を引いた。


「さぁ! 行きましょう! こっちです! 私のとっておきの秘密の場所に案内します!」


 意気揚々とした様子のメローナ様に、私とアシェル様は視線を重ねると笑い合った。


 庭を抜けてメローナ様が案内してくれたのは、王城の裏にてある小さな森のような場所であった。


 少しだけ薄暗く、子どもが一人で来るには危なくないのだろうかと思ってしまうような場所であった。


「こっちの少し奥に、お花畑があるんです」

『この森は誰も来ないから、私も一人でのんびりできる場所』


 一人は寂しいだろう。


 私はメローナ様はこれまでどのように生きてきたのだろうかと、心配に思った。


 アシェル様は森を見回しながらその声を漏らす。


「綺麗な森だ……これはいい秘密基地ですね」


 その言葉にメローナ様は自慢げに言った。


「ふふふ。そうでしょう? ここは素敵な森でね、くまたんがおしえてくれたの」

『くまたんは物知りなのよ!』


 くまたんとは、背負っているぬいぐるみの名前なのだろうか。


「私も小さい頃は、人形で遊んでいたことがありましたよ」


「そうなのですか? 私は……あまり遊んだ記憶はありませんね」


 幼い頃から、両親は教育に厳しく、子どもらしい遊びもほとんどしたことがなかった。


 ただメローナ様の持っているぬいぐるみ、くまたんを見ていると、少しだけ怖いなと感じた。


 何故だろうかと思っていた時、アシェル様が足を突然止め、それから身構えた。


「アシェル様?」


 私が首を傾げると、森の中から複数名の男達が現れた。


「誰? だって、王城の中で魔法がかけられているはずなのに」

『ありえない。なんで? こんなこと今まで一度もなかったのに』


 一体何者だろうかと私はメローナ様をぎゅっと抱きしめていると、男性の中から一人が前へと出てくると言った。


「私の名前はジョバンニ。非魔力保持者です。どうかメローナ様に話をする機会をいただけないかと、ここに来たのです」

『すぐに王城を離れなければ……ばれるわけにはいかない。メローナ様と、この二人も連れて行く』


 非魔力保持者?


 そんな人たちがどうして魔法で守られているはずのロマーノ王国王城内にいるのだろうか。


 王城のいたるところに不審者などが入らないように魔法が駆けられていると最初に私達は説明を受けていた。


 それなのに何故?


 メローナ様の表情は青白くなり、私にしがみつ手に力が入る。


 ここは王城敷地内だとはいえ、人通りはほとんどない森の中。


 アシェル様はちらりと周囲を見回し、それから小さく息をつくと言った。


「……王族を誘拐して、どうなるか、その覚悟は?」


「……危害は絶対に加えません。私達は……話を聞いてほしいだけなのです」

『私達は……私達は、普通に生きたいだけなんだ!』


 悪意は感じられないけれど、何があるかは分からない。


 けれど、現状から逃げられるとは思えなかった。


「すみませんが、しばらくの間お眠りください」

『隣国から輸入した魔術具をこんなところで使うとはな……』


 次の瞬間、私の意識は遠のいていく。


 そんな私の体を、誰かが包み込んだような、そんな気がした。


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