15話
王太后ソレアは、騎士からレガーノとメローナが今日会ったことや、エレノアと一緒に現在メローナがいることなどの情報を得ると、大きくため息をついた。
そしてセンスをイラついた様子で嚙みながら、壁に投げつけ、静かにため息をつく。
ベルを鳴らし、紅茶を机の上に出すと、それを一口飲んで顔をあげた。
「どうしたものかしらね……はぁ。今の大事な時期に、レガーノは何故メローナと会ったのか……非魔力保持者団体が、裏で活発化しているというのに」
ロマーノ王国では、王太子が十八になり成人しなければ王位につけない。
その為、夫である王が亡くなってからソレアは必死で王太后としてレガーノが王位につくまでの間国を保ってきた。
だけれど、その中で最もソレアの頭を悩ませているのがメローナの存在であった。
「……何故魔力がないの……」
ソレアは大きくため息と浮くと瞼を閉じて、両手で顔を覆った。
魔力優位社会であるロマーノ王国において、王族は最も魔力が強い存在でなければならない。
それなのにもかかわらず、魔力を持たないメローナが生まれた。
「なんで……」
ソレアはそう呟くと、立ち上がり、国王の肖像の飾られている前へと移動すると、そこに手を当てた。
「……どうか力を貸して下さいませ……親としては反しているとは分かっております。ただ……私は、この国を守らなければならない」
亡き夫。
それに向かってソレアは自分の思いを吐露する。
王太后としては、決して呟くことの出来ない本音を、絵に向かって呟きながら自分の罪を受け止めようとするソレア。
誰にも明かすことは出来ない。
それでも亡き夫と、この国の繁栄のために責務を果たすと誓ったのだ。
その代償として罪を背負おうとも。
「……非魔力団体を使い、メローナには王家から退いてもらいましょう」
魔力をもたない王族は、火種にしかならない。
そう、自分の母が動きをし始めたことに気付いたレガーノは、魔法の水晶を眺めながら大きくため息をついた。
メローナやぬいぐるみのこともあるというのに、ソレアまで何か動き始めたことに頭をガシガシと掻きながらレガーノはゆっくりと息を整えていく。
頭を悩ませることが多い。
父王が亡くなってからレガーノの母は変わった。
王太后としての責務に追われ、それ故に隙を作らなくなっていった。
笑顔は消え、王族とはこうあるべきという型に自らが収まり、そして貴族達に強い王太后の姿を見せて国を安定させた。
苦労があっただろう。
自分も国のためにと頑張ってきているが、その非ではないほどにこれまで母は大変だったはずだとレガーノは水晶の中を覗き込む。
水晶の中は変わり、次に映し出されたのはメローナの姿であった。
これまで、兄として何もできなかった。
本当は、可愛いメローナを毎日眺めて過ごしたかったけれど、それを母が許さなかった。
だけれどこれからは違う。
この国の王に、自分が立ったのだ。
「メローナ。これから幸せにするからな」
そう呟いた時、水晶の中のメローナが楽しそうに笑い始め、レガーノは目を見開いた。
「メローナが……また笑っている?」
これまで暗い顔しか見たことのなかったメローナが、普通の少女のようにけらけらと楽しそうに笑っている。
レガーノはがたりと立ち上がり、驚いたまま、水晶の映像を広げると、エレノアとアシェルと共にメローナが談笑している姿があった。
「笑っている」
楽しそうに笑うその姿に、レガーノは目元を手で覆うと、ため息をつく。
自分が笑わせたかったけれど、それでも自分じゃない誰かに出会っても笑ってくれていることが嬉しい。
レガーノはエレノアを見つめた。
「さすがは……アシェルが好きになる女だな……はぁぁぁ。メローナの為に……魔力のない女との結婚も考えてもいいかもしれないな」
不穏な呟きは誰に届くでもない。
ただ、レガーノは自分の中でその言葉を反芻したのであった。






