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累計20万部突破 完結済【書籍化・コミカライズ】心の声が聞こえる悪役令嬢は、今日も子犬殿下に翻弄される   作者: かのん
第四章

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12話

 私はくまさんのぬいぐるみを見て、一歩後ずさったのだけれど、私とレガーノ様の間にメローナ様は割って入ると、声を震わせながら言った。


「え、エレノア様をいじめては……だめです」


 片手を広げて間に入ったメローナ様はかすかに震えていて、勇気を出してくれたのだということが伝わってくる。


『お兄様……怖いけれど、エレノア様をいじめるのはだめ!』


 くまさんの心の声は聞こえず、だからこそ不気味に感じた。


 今自分は記憶の一部が欠落している。それが自分自身でも分かるほどに明確で、私はこぶしを握る。


 明らかに、あのくまさんに何かしらの要因があるはずだ。

 

 それを私は探らなければならない。


 レガーノ様は大きくため息をつくと、静かに背を伸ばし、それから口を開く。


「いじめているわけではない。ここへは普通は入れないはずだ。それなのに入っていたから尋ねただけだ」

『メローナのぬいぐるみか……怪しい気配を感じた時点で取り除くべきだった……ただ、メローナが大切にしていたから……くそっ。無害に見えたんだがな』


 その言葉に私は驚いてしまう。


 ただのぬいぐるみではないと気づいていた?


 くまさんのぬいぐるみが、何か異形のものに思えて怖くなってくるのに、それすらも自分の中で曖昧になっていく感覚に、私は自分を両手で抱くと、声を上げた。


「レガーノ様、お願いです。私のことを……知らせてください。記憶が……おかしくなっています。大切の人の名前が出てこないばかりか、今の記憶さえ、おぼろげになっています……お願いしまう。どうか、私の大切な人に」


 次の瞬間、意識がぷつりと途切れ、私はきょろきょろと見回す。


 今まで一体何をしていただろうか。


 目の前に私をレガーノ様から守るように立つメローナ様が可愛らしく思えて、私は笑みを浮かべるとメローナ様に言った。


「メローナ様。お騒がせしてしまいすみません。そうだ、一緒にお茶などいかがですか?」


「え? エレノア様?」

『どうしたの? お兄様と喧嘩をしていたのではないの?』


 私は小首を傾げると、レガーノ様が言った。


「なるほどな……記憶の改ざんか……メローナ。そのぬいぐるみをこちらへよこせ」

『メローナが大事にしていたし、害がないようだからと放置していたが、突然どうしてエレノア嬢のことを?』


 私は、メローナ様を今度は逆に背にかばうと言った。


 心の中で誰かがメローナ様を守れと私に言っているような気がした。


「レガーノ様。無理やりはいけませんわ。ずっと思っていましたが、メローナ様を大切に思うならば、もう少し笑う練習をしては? お顔が怖いですわ」


「なっ!?」

『なんだと!? くそ……はぁ一体どうなっているんだ? エレノア嬢は今、どうなっている?』


 私は何をレガーノ様は思っているのだろうかと思いながら、メローナ様に言った。


「行きましょうメローナ様。どこかでお茶でもいただきましょう」


「えっと、はい。ではお兄様失礼いたします」

『エレノア様が一緒にいてくれるの? ふふふ。嬉しい。嬉しい。ずっと一緒にいたい』


 私達は手をつなぐと一緒に歩き始めた。



 魔法でぬいぐるみを奪おうとレガーノは杖を構える。だがしかし、メローナの楽しそうな笑い声に、手を止め、杖を下ろす。


 エレノアとメローナの姿を見送ったレガーノは大きくため息をつくと、これからどうすべきかと大きくため息をついた。


「はぁぁぁぁぁ。何がどうなっている。……アシェルが……怒るな。はぁぁぁ。害がないと思っていたのが間違いだったか。だがメローナ……嬉しそうだったな」


 妹が笑うのを久しぶりに見た。


 どするべきか。


 レガーノはとにかくアシェルへと知らせなければならないと、歩き始めたのであった。



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